2016_02
14
(Sun)22:55

バレンタイン企画③『りっちゃんとてっちゃん』

リクエスト第3弾です。オリジナルです。青年と少女ということでリクエストいただきました。

実は全く違う暗い話を書こうとしていたのですが、深く書きたくなってしまったので差し替えました。今回掲載する分は逆に明るい話にしました。何にも考えずに読んでもらえればと思います。ある町の、ある日の、何でもない日常です。



 ここは「四つ葉食堂」。一般家庭の食卓に並ぶような食事を、栄養たっぷりにおいしく作って出すことが自慢のお店。そしてわたしのおうちでもある。

 製造業が盛んなこの町の、中心部からちょっと離れた暗い場所にあるこの店には工場で働く男性のお客さんが多く訪れる。食材にこだわっている分値段もそれなりだし、注文を受けてから作るから時間もかかるし、駐車場だってそこまで広いわけでは無い。「うまい、安い、はやい」のうち「うまい」に特化した店だな、と週に一度やってくる常連のおじさんが言っていた。

 そのおじさんはいつもお勘定の時におまけしてくれんか? と冗談を言う。無理ですごめんなさいと言うと、作業着のポケットから袋がぐしゃぐしゃになったあめ玉をひとつくれる。そうして、いやーしっかりしてるなあ、はっはっはっと笑う。毎度このやりとりを飽きずに繰り返す。わたしはこうしてお客さんたちと接するのが大好きだ。

 わたしは学校から帰ると17時から19時の間だけお手伝いをしている。朝が早い製造業の晩ご飯の時間帯でもあり、お手伝いをするのに無理がない時間だった。小学校3年生の時から始めてもう4年目。注文もとれるし、レジもできるようになった。

「りっちゃん聞いてよ~俺今日も失敗しちゃったよ」

 情けない声を出すのは、よれよれの作業服にぼさぼさの茶髪のてっちゃんだ。週に2、3回来る常連客のてっちゃんは注文を終えるといつもわたしに泣きついてくる。

 おとといはお客さんのところに謝りに行ったとか言ってたような。その前は報告書を書いたとか、とにかく失敗した話題ばかり聞いている気がする。

「はいはい、今日はどうしたの?」

「ちゃんとくっついてなかったんだよ。スポット若干薄いくらいだったから甘く見てたけど、タガネ入れたらきれいにはがれちゃってさ」

 そう言って机に突っ伏している。てっちゃんは工場で品質管理の仕事をしているらしい。わたしには毎回よくわからないことを言う。いつもナットがどうのとか、穴がどうのとかひとりでわあわあ言っている。説明もなく特にコメントも求められない当たり、ただ言いたいだけなのだろうと思う。

「……お味噌汁、先飲む?」

「飲む!」

 ベトベトンみたいになっていたのが、一気にしゃっきりとした。目が焼いたサンマのようだったのが、散歩中に猫を追いかけている近所の子犬のようになっている。

 てっちゃんはうちのご飯が大好きだ。まだ3年目で給料が少ないてっちゃんが頻繁にここに来るのはかなり贅沢だそうだ。たまに一緒に来るてっちゃんの先輩がそう言っていた。よっぽど好きなんだろうな、とその先輩は笑っていた。

「はい、お味噌汁。今日はキャベツとにんじんとたまごと豆腐ね」

「おおっ! 超豪華! いただきます!」

 ひとくち食べて「うめえ」、またひとくち食べて「やべえ」、その後は無言でひたすら食べている。喜んでもらえてなによりだ。わたしはこうしててっちゃんが楽しそうに食べているのを見るのが好きだった。

「りっちゃーん! 注文いいー?」

「はい、ただいま!」

 残念、呼ばれてしまった。わたしは別のテーブルのお客さんのところへ行った。



 ある日の夕方、お店がいつもより空いていたのでわたしはてっちゃんが食べ終わってから、目の前のイスに座ってのんびりとおしゃべりをしていた。

「そう言えばてっちゃんは買い物行った?」

 今度大型ショッピングセンターが閉鎖されるため売り尽くしセールが続いている。いろんなものがかなり割引されているみたいだった。

「へ? どこへ?」

 店の名前と閉店セールをやっていることを言うと、まじか、知らんかった、と呟いている。それこそまじか? って思う。あれだけみんな話題にしているのに。

「閉めるのは噂では地盤沈下が原因だって話だけど、古いし仕方ないよねえ」

 お客さんから聞いた情報を伝えると、てっちゃんは感心したような顔をする。

「りっちゃんはすげえな。俺よりいろんなこと知ってる」

「てっちゃんが知らなさすぎなんじゃない? お仕事のことばかりで」

「まあなんだかんだ楽しいからなあ……仕事してここで飯食ってるだけで幸せ。でもやっぱり大人としてはいろいろだめだよなあ」

 りっちゃんにも愚痴言って迷惑かけてばっかりだし、と大きなため息をつく。ああ、落ち込んじゃった。ごめん。わたしはちょっと待っててと言い、ある物を取りに厨房に行った。

「これチョコプリン。わたしが作ったの。今度バレンタインだからお客さんみんなにサービスで出そうと思って。試食してくれる?」

 そう聞くともちろん! と返ってきた。いただきますと言うやいなや大きなひとすくいを口に運んでいる。

「うまい! りっちゃん立派に大将の跡継げるよ」

「本当?」

「うん。りっちゃんが店継いだら俺毎日来るよ」

「よし。じゃあそうなったらご飯タダで大盛りにしてあげる」

 やったあと喜ぶてっちゃん。かわいいなあなんて思ってしまう。笑顔を見ていると心がぽかぽかして元気が出てくる。

 てっちゃんはいただきますとごちそうさまが言える良い人。愚痴だって結局は自分の反省ばっかり。会社や人の悪口ばっかり言う人だっていくらでもいるのに。本人にとっては当たり前過ぎてなんとも思わないんだろうな。

 本当にだめなてっちゃん。大人のくせに自分のいいとこ全然わかってない。お仕事ばかりだし、見た目にも気を遣ってないし、これじゃあ彼女もきっとできない。しょうがないから将来わたしがお婿さんにもらってあげよう。

 目の前でプリンを食べているてっちゃんをちらりと見て、わたしはそう心に決めた。





※スポットは「スポット溶接」の焼け跡みたいなものです。ベトベトンはポケモンです。

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