2016_02
14
(Sun)22:39

バレンタイン企画②『冬を耐える花』

リクエスト第2弾は『清光恋々』の千代ちゃんと有馬です。

本編ではちっとも仲良くなれない上にバレンタインデーの無い時代ですからこんな感じになりました。




 窓の外ではちらちらと雪が降り始めていた。道理で寒いはずだ。千代は読んでいた本を閉じて机に置くと、窓辺に立って空を眺めた。

 ふわふわ、ふわふわ。雪は風に乗って軽く右に左に揺れ動きながらゆっくりと落ちていく。まるで踊っているようだった。しばらくその様子を見ていたら、うずうずしてきてしまった。

 八重も出かけているはずだし、少しだけならいいだろう。千代は羽織を手に取ると階段を降りた。

 期待に胸を膨らませながら扉を開けると、頭や肩に雪の結晶を乗せた有馬が立っていた。お互いに目を丸くしてたっぷり一秒は固まってしまった。先に口を開いたのは有馬だった。

「こんにちは、千代さん。まさかこんな風に笑顔で歓迎してもらえる日がくるなんて思ってもみませんでした」

「なぜ、あなたがここにいらっしゃるのかしら?」

 寒いので一応は招き入れて戸を閉めたが、千代は眉間にしわを寄せ、盛大に不快感をにじませて声で言った。今日は来るなんて聞いていない。気持ちが急速に乱れていく。なんの罠だろうか。

「ああ、実はですね」

 有馬は全く気にした様子もなく手にしていた包みを広げる。姿を現したのは古さを感じる少しぼけた色をした木のお茶碗だった。覗くと中で水がかちかちに凍っており、椿が一輪入っていた。透明な氷に閉じ込められた深い赤色は一層鮮やかに輝いて見えた。

「きれい……」

 思わずそう呟いていた。有馬はそっと千代に手渡す。千代も何も言わずに受け取った。手の熱を伝えないようにふちを持ちながら、角度を変えて何度も眺める。千代の瞳は氷と同じくらい輝いていた。

「喜んでもらえたのならよかった」

 しばらく何も言わずに千代の様子を見守っていた有馬がほっとしたように呟いた。

「まさかこれを見せるためだけにいらっしゃったのですか?」

「いいえ、千代さんに会いたくなったので来てしまいました。それはついでです」

 有馬は千代が嫌ういつもの調子でさらりと告げた。嘘つき。私のことなんてなんとも思っていないくせに。

 しかし、この人は今日これを見つけて千代を思い浮かべたのだ。そして見せたいと思ってくれた。それをどう捉えればいいのだろう。

 心が、揺れる。

 ふと気付くと氷の端のほうが水になりかけていた。すべて溶けたら中の椿はしおれて、簡単にばらばらになるだろう。千代はそっと近くにあった花台にお茶碗を置いた。これ以上自分の熱が伝わらないように。有馬はそんな千代を不思議そうに見つめている。

 このままでいい。冷たくても、触れなくても、何も壊れないで美しくあるのなら。

 千代は有馬を追い返すため、口を開いた。

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おおお〜

こんばんは。

素敵な、素敵な
二人のバレンタインありがとうございます。
これは去年に増して、いい感じじゃないですか〜。
この千代のとにかく素直じゃないところが心憎い〜。
この作品の醍醐味ですよね。

そして、有馬のプレゼントもなんてセンスがいいんでしょう。
千代の心が揺れて当然。
このじれったさが好きですが、ええと、そうですね。
もう少し仲良くなれるといいですね(笑)

大満足の一編でした。ありがとうございました。

2016/02/16 (Tue) 04:28 | 八少女 夕 #9yMhI49k | URL | 編集 | 返信

Re: おおお〜

八少女さま

コメントありがとうございます!楽しんでいただけたようで何よりです。
千代ちゃん……だんだん有馬が不憫になってくるツンツン具合です。

プレゼントも褒めていただきありがとうございます。持たせたほうとしてもうれしい限りです笑
それにしても有馬はお金あるくせにいつも櫛だの椿だの質素なもの持ってきますね〜千代ちゃんには響いているようなのでいいですが。

仲良くなるのはストーリー展開的な意味でも執筆スピード的な意味でもまだまだ先ですが気長にお付き合いいただければと思います。
よろしくお願いします。

吉川蒼

2016/02/16 (Tue) 20:41 | 吉川蒼 #- | URL | 編集 | 返信

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