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2014_03
09
(Sun)21:37

『収束するk』

まっすぐ系真面目女子×へらへら系真面目男子の話




 



「ねえ、これさ、名前なんて読むの?」

 高校3年生、春。数学の選択クラスで隣になった彼は、採点のために交換した小テストの答案用紙を見て、そう聞いてきた。


 “小見山柊子”


「こみやましゅうこ」

「へえ、変わった名前。でもいいね。これから柊子って呼んでいい?」

 初対面なのに、少しなれなれしいような気もしたけれど、期待するような彼の顔を見たら嫌とは言えなかった。

「別に、かまわないけど」

「よし。じゃあ俺のことはまさきでいいよ。ちなみに字はそれ」

 彼が私の手元にある答案用紙を指差す。


 “佐野 柾”


 私と同じ、木の名前。少しだけ親近感を覚えた。

「柊子ってさ、おもしろい解き方するね。先生の解答よりこのほうがきれいな気がする。なんでこんな発想ができるのかわかんないけど」

「柾は……なんで白紙なわけ?」

 私の作業はわずか数秒で終わった。0点と書いただけだ。

「いや、だってわかんないし? 苦手なんだよね、数学」

 けろっと答える彼に慄いた。私たちは仮にも受験生。少しの抵抗も見せずに散っていくことがあってはならないだろうに。しかもこのクラスは、二次試験に数学がいる人用のクラスなはずなのに。

 驚いて言葉が出ない私をよそに、彼は採点を続けていく。

「柊子の解答、ほんとわかりやすくていいな」

 採点を終えて、彼はいかにも感心したという風ににこにこと笑っている。私の点数は満点。もう少し、危機感を持ってもよさそうなものなのに。

「ねえ、これから俺に数学教えてよ」

 それが私たちの出会いだった。数学の得意な私と苦手な柾。主に私が柾に勉強を教えるという形での付き合いが始まった。





「あれ、意外、柊子もこういうの見に来るんだ」

 期末テストの上位成績者の貼り出しを見ていたら、柾に声をかけられた。

「うん。今回はなんとなくね。柾、意外と成績良かったんだ。あんなに数学できないのに」

 彼は総合で上から30番目くらいに名前があった。

「柊子様のおかげで足引っ張る奴がだいぶ浮上してきたからね。でも、やっぱり柊子はさすがだわ」

 私の名前は彼より大分上にあった。

「ねえ、今回も数学の見直しも付き合ってよ」

「今日は用事がある」

「じゃあ、明日」

 ふと考える。明日は特に予定が無い。

「わかった。明日なら」

 じゃあ明日よろしく、と言って彼は去っていった。





 次の日、約束通り、私は柾の数学を見ていた。

「これはどういう意味?」

「これはね、正弦定理と条件式からこうおいて、次に余弦定理で……」

「あ、ああ! わかった。なんだ、そういうことか」

 柾は一旦理解すると速い。頭がいいのだと思う。ただ数学に関して、入り口を見つけるのが苦手なだけで。

 さらさらと解答を紡ぎ出した柾に、思っていることを伝えてみる。

「柾は頭がいいと思う。人の倍の数問題解いたら、すぐできるようになるよ。めんどくさがらずにたくさん問題をやるといいと思う」

「そう?」

「うん。数学の思考に慣れてないだけじゃないかな。繰り返して慣れてくると、問題がこう、おいでーってしてる感じに見えるようになるよ」

 彼に向かって数学の問題の気持ちになって両手を伸ばした私を見て、柾が固まる。と、次の瞬間、盛大にため息をついた。

「柊子。俺、たまにすごく心配になるんだけど。どっかでだまされたりとかしてない?」

「は? 何をいきなり失礼な。しっかりしてるとしか言われたことないよ」

 突然、あんまりな言い草だ。

「いや、確かに一見そうなんだろうけど。俺にはそう思えなくて」

「どういうこと?」

「いや、だから、たまに、いろいろと……」

 随分と歯切れの悪い言い方をする。

「意味がわからない。はっきり言ってよ」

「いや、まあ、美徳だと思う。人間素直なのがいい。うん。とりあえず柊子はそのままでいいよ。この話は受験後にしよう。あ、そうだ、俺志望校1ランク上げることにしたから。柊子と一緒のとこにする」

 これも柊子様のおかげ、と彼は笑う。

「そうなの? よかった」

「期待しないで聞くけど、それ、どういう意味?」

「がんばってる効果が出てるようでよかったね?」

「……うん。そうなるよね」

 私の答えを聞いて、珍しく落ち込んでいる風だった。

「まあ、いいよ。長期戦覚悟してるし。はあ。全然そんなつもりなかったのに、柊子がそんなんだから……ああ、もうじゃあ次これ、教えて」

 結局その日は何の話だかさっぱりわからないまま、うやむやにされた。

 そしてその話は、それ以来話題に上ることは無かった。本格的に受験モードに突入し、お互い自分の勉強に専念する時間が増えたことで、一時的に一緒に過ごすことが減っていったせいもある。

 でもあの時の柾が私を見つめる目が、なぜだか頭から離れなかった。一人で数学を解いていても、なぜか時々頭の中でちらついて、胸の奥がざわざわして、平静でいられなくなった。そして、そのことは受験期以降も長いこと私を悩ませる難問となった。





 ちなみにその答えがわかったのは、2人して無事受かった志望校を卒業しようかという頃だった。思いついた答えを柾に告げたら、すごく呆れられた。そして、数学解くより大分苦労したよ、この鈍感素直ばかと言われて抱きしめられた。これでとりあえず私たちの始まりの話は終わり。

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