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2015_07
12
(Sun)21:37

『金魚の棲む森』前編

おばあちゃんの家に遊びに来ていた那弥子。お祭りで出会ったのは『金魚』と名乗る男の子だった。








 蝉の大合唱をBGMにアイスをかじりながら漫画を読んでいたら、今日はお祭りがあるから行っておいで、とおばあちゃんに言われた。こっちには友達がいるわけでもないしひとりで行ってもなあと言おうとしていたのに、振り返ってにこにこと笑うおばあちゃんと目が合ったら、行ってくるねと答えていた。

 そんなこんなで、夕方になってから散歩がてら近くの神社までやってきた。既に日は落ちて空は薄暗いけれど、あたりは外灯と灯りを釣った屋台でとても明るい。地元の人だけのお祭りで、人はそう多くはないけれど十分ににぎわっていた。

 ひとりで何しに来たんだろう。サンダルを引っかけただけの足元に視線を落として、ため息をつく。まあでもせっかくだからと、とりあえず一周だけして帰ることにした。

 特に目的があってきたわけではないので、屋台を眺めながらふらふらと歩く。りんご飴、焼きそば、チョコバナナ、ヨーヨー釣り、お面、金魚すくい。どこにいる人もみんな楽しそうだ。

 手作りアクセサリーを売っている屋台の前では、小学生くらいの女の子とその両親がヘアピンを選んでいた。ピンクの花のものと黄色の花のもので迷っているようだ。交互に髪に当てて見比べている。母親と女の子のはしゃぐ笑い声と静かに答える父親の声に、ふいに胸が苦しくなった。

 わたしのポケットの中にも古いぱっちんどめが入っている。薄紫色のチェック柄で、リボンがついている。生地がよれよれになっていて、ところどころ擦り切れている。十年以上前にこのお祭りで買ってもらったものだった。

 これを買ってもらった時のことはよく覚えていないけれど、両手に手をつなぐ人がいて、笑っていた記憶がある。右に力強い大きな手、左に優しい手。お父さんとお母さんがまだ仲が良かった頃だ。

 夏休みにおばあちゃんの家に来るのも、いつの間にかわたし一人になってしまった。中学生になったのだから、これからは一人でも大丈夫でしょと言われた時はショックだった。それからは半分意地で毎年おばあちゃんの家に遊びに来ている。今回は5回目の夏だ。

 屋台の前の家族から視線を外すと、視界の隅を何かがふっと横切った。真っ黒な浴衣を着て、真っ赤な流金のお面を頭に載せた男の子だった。高校生くらいだろうか。とても目立つ格好だった。

 彼は一心にどこかを目指して歩いているようで、足取りも速い。彼だけ周囲から切り取られたようで異質な雰囲気をまとっている。なんとなく目を奪われて、無意識のうちに彼を追いかけていた。

 右、左、左、右、右、右、左。

 随分と複雑な動きをする。気が付けば屋台も人の気配も無くなっていた。というよりも、森のようなところに来てしまった。確かに神社の裏手には木が生えていたけれど、こんな風になっていただろうか。

「あれ、那弥子? ついてきてしまったの?」

 急に声をかけられて、心臓が痛いくらいに飛び跳ねる。さっきの男の子がこちらを見つめていた。

「え、あ、ごめんなさい……って、あれ、名前、どうして知っているの?」

 とっさに謝ってしまったが、疑問が浮かぶ。わたしと彼は初対面のはずだ。

「知ってるから知ってるんだよ」

 不思議な返し方をされた。答えになっていない。

「あの、失礼だけど、どなたですか?」

「おれ? 金魚だよ」

 彼は頭の上に載せているお面を示しながら、あっけらかんと答えた。完全にからかわれている。この感じは、わたしは覚えていないけれど幼馴染とかなんだろうか。

「ごめんなさい。本当に覚えていないの。もしかして、小さい頃に遊んだりしていた?」

 素直にそう話すと、彼は気を悪くした風でもなく微笑んだ。

「うん。まあ、那弥子は小さかったしね。覚えていないのかも。最後に会った時は確か、3年生と言っていたよ。あれから随分とおれも変わってしまったし」

 同い年くらいに見えるけど、少し年上のお兄さんなのかもしれない。昔は近所の子たちと遊んでいたし、その中のひとりなんだろうと納得した。

「どうしようかな……」

 わたしが考え込んでいる間、彼も何かを悩んでいる風だった。少しの沈黙の後、何かを思いついたようにお面を外してわたしの頭に載せた。そしてしっかりと手をつなぐ。

「うん。これでおれたちはただの一匹の金魚にしか見えないはずだ。いい? 那弥子。絶対にお面を取ってもいけないし、手を離してはいけないよ。あと、近くに何かがいる時は、極力声も出さないようにするんだよ」

 大真面目な顔をして、そう告げる。何の話だろうか。しかしその勢いに押されてしまい、ついわかったと返事をしてしまう。おとなしく従ったわたしに彼はふっと表情を緩めた。

「帰り道は複雑だけど、帰れないわけじゃない。今日はこちらもお祭りで、気が紛れているから、そうそう関心を向けられることもないはずだ。何かあったとしても、那弥子はおれが絶対守るから安心して」

 彼の言っていることはよくわからなかったから、曖昧に笑っておいた。とりあえずわたしは迷子で、彼が連れて帰ってくれるのだろうということだけはわかった。 


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