--_--
--
(--)--:--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2015_05
23
(Sat)22:50

『タイムカプセル』

自分が埋めたタイムカプセルの中身が思い出せず、気乗りしない同窓会に参加する凛。出てきた物とは.....


.





 その知らせは突然やってきた。


   “Fw:○○中学校3年2組だったみなさんへ

    こんにちは。学級委員をやっていた鈴木智美です。

    もうすぐ成人式ですね! 元気にしてましたか?

    ところでみなさん、卒業前にタイムカプセルを埋めたことは覚えていますか?

    20歳になったら掘り出す約束でしたよね。

    というわけで、13日(成人式の前日)の14:00にあの桜の木のところに集合してください。

    意見・質問等は私(×××@○○○.jp)まで。みんなちゃんと参加してねー!

    p.s.木戸倫子、山本佑太、吉岡凛の連絡先がわかりません。知ってる人はメール転送してください!


    吉岡さん、もしほかの子からもきてたらごめん。一応送っておくね。“


 転送してくれたのは、唯一あのクラスから同じ高校に進学した佐々木さんだった。特に連絡を取り合うほど親しいわけではなかったが、お互いに連絡先は知っていた。


   “連絡ありがとう。ほかの子からはきていないよ。

    携帯買ったの高校に入ってからだから、中学でアドレス知ってる人少ないの。

    助かりました。“


 送信。
 
 それから捜されていた人間としては鈴木さんにも知らせておくのが筋である。
 
 新たにメール作成画面を開く。


   “吉岡です。佐々木さんからメールを転送してもらいました。

    わざわざ捜してもらったのにごめんなさい。当日は行けそうにありません。

    成人式には行くのでそこでみんなと会えるのを楽しみに“


 そこまで打ってふと手を止める。そういえば私、何を埋めたんだっけ。

 参加したのは覚えてる。手紙のような気もするし、何か物を入れたような気もしなくもない。

 しばらく考えてみたが全く思い出せなかった。

 自分はクラスの集まりや同窓会に積極的に参加する方ではない。私みたいにクラスで浮いていた人間が行ったところでまわりが困るだけのような気がしているからだ。中学の同級生で今も親しい人というのはいないからなおさら。

 だから当然「行く」という選択肢はなかった。

 しかしタイムカプセルの中身がどうしても気になる。

 少し迷ったがメールの文章を打ち直す。


   “吉岡です。佐々木さんからメールを転送してもらいました。

    当日みんなに会えるのを楽しみにしています。“


 保存。

 もう少し考えてだめだったら行ってみようかな。
 
 携帯をベッドの上に放り投げる。そのまま自分もボスンと横になる。

 なぜかタイムカプセルの中身を思い出さなければいけない気がした。

 どうしてだろう。しかし、思い出せない。

 結局、数日後に保存したメールを送ることにした。





 そして現在、約束の日の13時半を過ぎたところである。

 出かける準備は整った。

 今日は曇りのち雪。今週1番の寒さ。

 気が重い。

 しかし、このままぐずぐずしていては時間に遅れてしまうので家を出る。

 風がとても冷たく、今にも雪が降り出しそうだった。

 ますます気が重い。だが、一度行くと言った以上行くしかない。

 ゆっくり歩いても寒いだけなので、さくさくと懐かしい道を歩き出す。

 あのお花がきれいだったおうちは引っ越しちゃったのか。

 あの犬、今も元気に吠えてるんだな。

 ……こういうことは思い出せるのに。

 参加表明をしてからもずっと考えていたが、結局タイムカプセルの中身についてはかけらも思い出せなかった。

 手紙、名札、写真……どれもピンとこない。

 そんなことを考えているうちにあっという間に中学校に着いた。

 まだ14時には15分以上あったが桜のところにはもうほとんどの人が集まっているようだ。とてもにぎやかだった。

 きっと旧友との再会が待ち切れずにみんな早めに来たのだろう。

 グラウンドに入ったところで誰かがこちらに気付いたようだった。

「あっ、吉岡さんだ」

 大声で呼んでくれてしまった。図らずも注目を浴びることとなる。ちょっと恥ずかしい。

 とりあえず手をひらひらと振ってみる。何人かがそれに応えてくれた。

「わー、久しぶりだね。元気だった?」

「歩いてきたの?」

「△△高だったよね? 今どこの大学なの?」

 みんなのところに着いた途端、取り囲まれた。

 テンションが上がっているらしく次々に質問してくる。私、こんな扱いだったっけ。

「あ、うん。元気。大学は、○○大」

「すごっ、さすが吉岡さん。頭いーね」

「じゃあまだこの辺に住んでるんだ」

「えー何学部?」

「法学部」

 まわりの反応に戸惑ってしまう。

「変わんないねー。相変わらずクール」

「そうそう。中学のころから落ち着いてたもんね」

「いちばん大人っぽかったし」

 なんだか私を取り残してまわりが盛り上がっていて、気後れしてしまう。


   吉岡さんまた1番だったんだって!

   だって頭いいもん。

   高校は△△高だって。まあ余裕で受かるでしょ。

   県内トップ校なのに。

   落ち着いてるしー

   お前らも吉岡見習えよな。あのクールビューティー。

   うっさいな。あんたたちこそ見習いなよ。


「ゆうたがきたよー」

 また誰かが大きな声を出した。私を取り囲んでいた人たちも声の方に振り向く。

 中学時代に軽くトリップしていた私も呼び戻されてそちらを見る。

「ゆうたー、久しぶりだな」

「なんで連絡取れないんだよ」

「悪い! 大学入ってすぐ携帯水没させちゃってさ。データ全部とんだの……んで、中学の人の分回収するの忘れたままスマホにしちゃったわけ」

「うわ」

「だせー」

 山本佑太。私と同じく捜されていた人。でもその理由は私とは、違う。

「ゆうたー新しい連絡先教えろよ」

「私もー」

 彼のまわりに人が集まる。私を取り囲んでいた子たちもそっちへ行った。

 私は少し離れたところに佐々木さんがいるのを見つけたので、お礼を言うべく彼女のところへ行った。

「佐々木さん」

「あ、吉岡さん」

「連絡ありがとう。このクラスで同じ高校行ったの佐々木さんだけだったから、助かった」

「そういえばそうだったね。送ってよかった。……山本くん、相変わらず人気だね」

 彼女はわいわいとにぎやかな集団のほうを見て、苦笑しながら言った。

「うん。そうだね。なんか懐かしい、この感じ」

「うん。あのころの教室にいるみたい」

「みんなだいぶ華やかになったけどね」

 髪の毛と服装とか。それが戸惑いの原因かもしれない。

「ふふっ。確かに」

 そう言って2人で笑う。

 パンパンと手を打つ音が聞こえた。

「はーい、みなさん。集まってー。今日は来てくれてありがとうございます。幹事の鈴木です」

 知ってるーというちゃちゃが入る。まわりがどっとわく。

「せっかく集まったので、タイムカプセル掘り出す前に軽く近況報告会しまーす」

 えー、こんな寒いのにーと不満の声が上がる。でもみんな笑っているから本気で嫌がっているわけではなさそうだ。自然と円になるように移動する。

「じゃあまず私、鈴木智美から。今は××大の教育学部にいます。この日のために新幹線で帰ってきました。××県に遊びに来たら言ってね。観光名所案内します!」

 そんな遠くから来たんかー、気合入ってんなーなどと野次が飛ぶ。

「鈴木、先生になんの?」

「そうだよ。中学校のね。美人教師、いいでしょー」

 まわりがどっと笑う。鏡見ろよーなどと失礼なことを言っている輩もいる。

 彼女が何か言うたびに外野がぎゃあぎゃあと盛り上がる。

 私も一緒に笑う。でも。

 私は、本当にこの輪の中に入っているのだろうか。

「はい、じゃあ次は……時計回りでいっか。ゆっこね」





 順調に近況報告は続いていった。そして私の番がまわってきた。

「私は、○○大の法学部にいます」

 そこでえー、すごーい。さすがだよなーなどと予想の範囲内の声が上がる。

 次に何かを話そうと口を開いた瞬間、

「今彼氏いるのー?」

 予想外の質問が飛んできた。

 ほかの子にとっても予想外だったらしく、一瞬静まる。

 質問者はその空気を察したらしく「え、ゆうたが聞けって言うからさー」などと言い訳をする。

「おいっ、誰もそんなこと言ってない」

 突然名前を挙げられた山本くんがあわてて否定する。そこでまた笑いが起こる。一部の人が何かひそひそと話して意味ありげに笑っているのが視界の端に入った。

「いないけど?」

 別に隠すことでもないので普通に答える。

「だってさ」

 質問した佐藤くんは山本くんのほうを見てにやにやしている。

「よ、吉岡さん、ごめん。俺は、別に……」

「ああ、いいよ。事実を答えただけだから。隠すことでもないし」

 うん。何も嫌な思いとかしてないし。

 それを聞くと彼はほっとしたような顔をした。

 変な形で注目を浴びることになってしまったので「じゃあ、次の人? 中澤さん?」と、早々に締めくくった。
 




 なんやかんやで近況報告会も終わり、とうとうタイムカプセルを掘り出すことになった。 

 大勢で作業することはできないので数人の男性陣が穴掘りをし、それ以外の人はまた適当におしゃべりを続ける流れになった。

 私は少し離れた所で穴掘り作業を見ながらまたタイムカプセルの中身を思いだそうと最後の悪あがきをしていた。同級生たちと会ったことで、何となくひっかかりが見えたような気がしたからだ。

 さっきトリップしたときに何か思い出しかけたような……

「吉岡さん」

「え?」

 呼ばれて振り向くと、山本くんだった。

「さっきは本当にごめん。拓也が勝手に……」

「ああ、いいよ。本当に気にしてないから。山本くんこそ災難だったね」

「いや……俺も口滑らしたのが悪かった」

「口滑らした? 何か言ったの?」

 ぎくっという効果音が聞こえるようだった。その様子からすると今のこそうっかり発言だったんじゃ……

「……言えない」

「そう。じゃあ聞かないよ」

 無理に聞き出すことでもないし。

 そう言うと彼は複雑な顔をしながらため息をついた。

「相変わらずかっこいいね、吉岡さんは」

「そう?」

「人のことさらっと気遣うしさ。それでそんな風に見せないし。努力家だし」

「そうかな?」

 冷めてるとはよく言われるけど。

「うん。俺中学のときからすごいと思ってたよ」

 意外だった。クラスの人気者にそんな風に思われていたなんて。

「覚えてるかわかんないけどさあ、隣の席になった月が1回あったんだよね。で、一度ノート借りたことがあんの」

「……そんなことあったっけ?」

「うん。そんとき見せてもらったノート、すっごくきれいにまとめてあってさあ。それだけじゃなくて自分で疑問点書いたりとか付けたししたりとかしてあって、だから成績いいんだなあって納得した覚えがある」

「……うーん」

 思い出せない。というかなんで友達がたくさんいる山本くんに私がノート貸したんだろう。

「しかもノートの貸し方もかっこよかったよ。休んだ授業の次の授業の前にさ、私のでよかったら見る? って。仲良いわけじゃなかったから驚いたけど、授業始まって納得。小テストがあるの覚えてたから貸してくれたんだよな。ほかのやつはすっかり忘れててさ。吉岡さんが助けてくれたんだよ」

「えーっと……ごめん。全く覚えてない」

 彼はがっかりする風でもなく笑って続けた。

「そうだろうなあ。吉岡さんそれぐらいのこといつも当たり前にやってたもんな……何かの締め切り忘れてる委員にさりげなく伝えたりとか。花瓶の水替えたりとか」

「……」

「俺、吉岡さんのそういうところすげぇって思って見てた。尊敬してた」


   俺、尊敬してるし。


 そのとき、確かに何かを思い出しかけた。

「おーい! 出てきたよー」

 作業を近くで見ていた子の声が響く。

 その声に驚いた拍子につかんだ何かが遠くへ行ってしまった。また惜しいところで逃してしまった。

「行こっか」

「……うん」

 ちゃんと思い出すことはできなかったのは残念だが、もうすぐ答えがわかる。





「はい、これ吉岡さんのね」

 手渡されたのは一通の封筒だった。薄い桜の柄の封筒だった。

 そうだ、これ見覚えがある。

 ドキドキしながら封筒を開けると、そこに入っていたのは1枚のプリントだった。


   「吉岡凛」さんへの手紙  その人のいいところを書きましょう。

   吉岡さんはよく気が付いてすごいと思います。この間はごみ捨て手伝ってくれてありがとうございました。 中村南

   宿題とか絶対ちゃんとやってくるのがえらい。見習いたいと思う。 近藤弘文

   超大人だけど、こないだ体育でサーブミスッてんのがかわいかった(笑)意外と天然なとこあるよね。それもまた魅力的だよ。 竹下理香子

   吉岡はまじいい人だと思う。将来絶対えらくなってほしい。 佐藤拓也

   吉岡さんはいつも客観的に物事を見ていてすごいなと思います。落ち着いていて憧れます。 都築真子

   この間、保健室まで付き添ってくれてありがとう。しゃべれないぐらい気持ち悪くてじっとしてたのを気付いてくれて本当にうれしかった。吉岡さんは優しい人だと思いうよ。 伊藤亜里沙

   吉岡さん、この間はノートありがとう。俺も吉岡さんみたいに人のこと気遣える人になりたいです。 山本佑太


 そうだ。これはいつかの授業でやった「クラスメイトへの手紙」。その人のいいところを書くやつ。ただひたすらにお互いを褒めちぎる恥ずかしい企画。

 どうして忘れてたんだろう。こんな風に自分のこと見てくれてたんだって思ったのに。

 そうだ、思い出した。私この手紙がものすごくうれしくて、涙が出るくらいうれしくて、失くしたくないからここに入れたんだ。

 “頭いいね。かっこいいね。”

 それは時に皮肉の言葉になる。当時もそれを感じていた。

 そして私は高校、大学と進むにつれてその皮肉交じりの称賛を多く受けるようになり、まわりと距離を置くようになっていった。

 私は人とどこか違うんだ。だから、みんなとは仲良くできないんだ。そんな風に思うようになっていってしまった。

 あの頃、あのクラスには悪意のある言葉なんてひとつもなかったのに、いつの間にそれを嫌な記憶で覆い隠してしまった。

 あれこれ思いだしたら不覚にも泣きそうになってしまった。

「吉岡さん? どうかした?」

 そんな私に気付いたらしく、一人の女の子が声をかけてきた。
 
「すごく懐かしくて。あと何で忘れてたんだろうって思って……」

 5年で私はすっかり何かを失っていた気がする。いや、失ったというよりは、閉じ込めてしまっていたと言うべきだろうか。

「えー! 吉岡さん、何埋めたか忘れてたの? 珍しいこともあるもんだね」

「まじで? 俺でもおぼろげに覚えてたよ」

「おぼろげで自慢になるかよ。まあ吉岡もどっか抜けてるとこあったしな」

「そうそう、1回給食ひっくり返したことあったよね」

「え?」

 全く覚えてない。

「あのときは驚いたなあ、吉岡さんが慌ててるのって初めて見たもん」

「そ、そんなことあったっけ……」

「あれ? もしかしてそれも覚えてない?」

「う、うん……」

「まじかー」

 みんなが笑う。つられて私も一緒に笑う。

 空はどんよりと曇っていて挙句の果てに雪まで降り始めたけど、心はすっきりと晴れた気がした。

 私はみんなの輪の中にちゃんと入っていたんだ。自分が壁をつくって見えていなかっただけで。

「うわっ、雪降ってきたよ」

「雪合戦しよー」

「こんなんでできるかよ」

 男の子たちがはしゃいで走りまわる。ほかの子も寒いのに楽しそうだ。

「明日の成人式大丈夫かな。足元悪くなるね」

 何気なしに言った私の独り言を近くで聞いていた子たちが思いっきり噴き出した。

「やっぱ冷静だよね、吉岡さんは」

「あのへんの男子に爪の垢売ってあげなよ」

 彼らはどうやら鬼ごっこを始めたようだ。

「需要があればね」

 我ながら図々しいと思いながらも冗談に乗っかってみる。

「なんか今の言い方かっこよくない?」

「確かに。ねえ、うちらも遊ぼうよ」

 そう言って彼女たちも走って行った。

 いいなあ。素直にそう思った。

 私もこの勢いで参加しようかなと思ったとき、後ろから肩をぽんぽんと叩かれた。

「山本くん」

 振りかえると思い詰めたような顔をした山本くんがいた。

「あ、あのさ、ちょっといいかな?」

「何?」

「よかったら連絡先教えてくんない?」

「ああ、うん。いいよ」

 大したことじゃないのになんでそんな思い切って言う感じなの。

「……吉岡さんてさ、中学の時もみんな言ってたけど、ちょっと天然なとこあるよね」

「私、何か変なこと言った?」

「ううん。何にも」

「じゃあどうして?」

「……何でもないよ」

「そう。じゃあいいや」

「やっぱもうちょっと興味持って」

「???」

「機会があればいつか説明するよ」

「わかった。いつかね」

 そして私たちは連絡先を交換した。

 そのあと、私はみんなと一緒に雪の中を走り回った。

 戸惑いはすぐには消えなくて、必要以上に冷めたふりをしてしまうこともあって。でも、時を越えて何かを取り戻せた気がしていた。

スポンサーサイト

C.O.M.M.E.N.T

コメントの投稿

非公開コメント

トラックバック

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。