2015_02
14
(Sat)23:31

うちの子たちのバレンタイン

みなさまこんばんは。いつもご訪問いただきありがとうございます。

今日はバレンタインデーということで、今までの自分の書いた子たちのそれぞれのバレンタインデーエピソードを書いてみました。思い立ったのが一昨日の夜なので急ごしらえです。そしてぎりぎりです(言い訳)。

時系列的にもいろいろですし、内容も明るかったり暗かったりしますが、ちょっとでも楽しんでいただければ幸いです。ちなみに本編のネタバレもありますのでご注意ください。

もし、お気に入りの一粒が見つかりましたら、教えていただけるとうれしいです。

それではご興味のある方は追記からどうぞ! 掲載が古い順に並んでいます。







『清光恋々』


「こんにちは、八重さん」

 八重が振り向くと、そこには千代の婚約者候補である有馬が立っていた。平日の真昼間、こんな時間に姿を見るのは初めてだった。

「申し訳ありません、千代様はいらっしゃいませんが…」

 有馬は頭を下げようとする八重を片手で制すと、もう片方の手に持っている小さな箱を目の前に差し出した。

「不在なのは承知で来たのです。これを私からとは言わずに千代さんに渡してください」

 大変おいしいと評判のお菓子を手に入れたので、ぜひ食べていただきたいのです、と笑う有馬の顔はいたずらを仕掛ける子どものようだ。

「わかりました。千代様に全部召し上がっていただくようにいたしますね」

 送り主さえ明かさなければ、お菓子好きな千代のことだ。きっと大喜びで食べるだろう。同じことを想像していた二人は目が合うとそっと笑った。




『サイカイ』


「ねぇ」

「なんだ」

「チョコレートとあげの味噌汁」

「!?」

「どっちがいい?」

「……新しいレシピかと思った」

「いや、さすがにないよー」

「だよな」

「で、どっち?」

「あげ」

「了解。あ、おかかのおにぎりもあるからね」





『星がおちたら』


 ちょうどシャワーを浴びて出てきたタイミングでテーブルの上に置いた携帯が鈍い音を立てて震えた。

 髪の毛の水気を拭うのもそこそこに携帯を手にとって開くと、花織からのメールの着信だった。

 2/14 0:00 件名なし、本文なし、添付の写真が1枚。

 写っているのは小さなチョコレートケーキだった。グラサージュが若干でこぼこしているが、スライスした苺が絶妙な角度でのっており、丁寧に作ってあるのが見てとれた。

 その1枚だけでレシピを悩んでいる姿、悪戦苦闘している姿、写真を撮って満足そうに微笑んでいる姿が容易に想像できた。

 花織はイベントの際には必ず連絡してくる。しかし、会いたいとか寂しいという言葉は決して言わない。

 きっと彼女の中で何か決めていることがあるのだろう。ただ、今回の本文なしメールは逆に彼女の複雑な気持ちを表しているように思えた。

「花織……」

 会いたくて、たまらない。誰もいない自分の部屋、ついため息とともに本心の一部がこぼれてしまった。

 夏彦は体が冷えていくのもかまわず、そっと携帯を握りしめて写真を眺め続けていた。





『収束するk』


 午前最後の講義の終わりを告げるチャイムが鳴った。私はノートをしまうよりも先にスマホを取り出す。

 通知にはLINEが1件。

 “いつものとこで待ってる”

 普段と変わらない一言に、心臓が跳ねる。そして顔がへにゃりと歪みそうになるのを慌てて正す。

 今日は柾と思いを確認しあってから初めてのイベントだ。

 家には昨日作っておいたちょっとだけ豪華な昼食とフォンダンショコラが用意してある。

 正直今さら女の子らしいことをするのは大分恥ずかしいが、柾が喜ぶのを想像するとついあれこれ準備をしてしまった。

 柾もきっと同じくらいそわそわしながら待ち合わせ場所で待っているだろう。

 私は手早く荷物をまとめると、かばんをしっかりと肩にかけて走り出した。





『花、嵐』

 
 彼女は自室の窓際で手紙を書いていた。それは2年前に屋敷から去った家庭教師兼護衛役に向けたものだった。

 わざわざ隣町まで買いに行った便箋に、お気に入りのペンで文字を綴っていく。

 
 庭の花のこと。
 
 最近食べた料理のこと。
 
 弟たちのこと。
 
 メイドの失敗話。


 自分の毎日のできごとを自由に書いた。手が追いつけないほどに語りたいことはたくさんあった。

 そして最後には、寂しい、あなたが好き、と添えた。

 書き終えるとペンを置き、窓の外に目をやる。庭では思い出の白い花がさわさわと風に揺れている。ぼんやりと眺めていると思い出すのは昔のあたたかな記憶ばかりだ。そこには必ず彼がいた。

 心がつきりと痛む。しかし、自分の中で彼に関わる全てがだんだんと遠くなっていく今、現実にはっきりと感じるその痛みは愛おしいものに思えた。

 インクが乾いた手紙は封筒に入れて丁寧に封をして、机の中に入れて鍵をかける。二度と出てくることはない。

 引き出しの中には同じように行く宛のないメッセージがあふれていた。





『風の行方』


「ミコ!」

 山で薬草をつんでいる最中に、珍しく風神の子がミコに声をかけた。

 あたりにはいつも通りの静寂が広がっている。特におかしな気配は無かったが、どこか急いたような風神の子の声が気になってミコが急いで向かうと、そこには一輪の白い花が咲いていた。

「きれいだろ」

 そう言って風神の子は得意そうに笑っている。

 人間の子どもとかわらない幼い一面がミコにはたまらなくうれしく感じた。そして、手折らずにわざわざ呼んで見せてくれた風神の子の優しさに、心の奥の柔らかい部分がじんわりとあたたかくなった。

「そうだな。ありがとう」

 ふたりで一輪の花を、肩を寄せ合って眺めている。ミコは叶わないことだと思いながらも、この穏やかな時間がいつまでも続くことを願った。





『太陽と月』


 ガチャリと鍵を回す音がした。兄が帰ってきたのだ。私は部屋から飛び出すと、玄関先まで迎えに行った。

「おかえりなさい」

「ただいま。今日のお目当てはこれでしょ。持っていっていいよ」

 渡された紙袋には色とりどりのチョコレートが入っていた。

「今年も大量だね。さすがおにいちゃん」

「こよみが食べたいと思って断らずに全部もらってきたんだよ」

「ありがとう。じゃあ、晩ご飯温めるね」

 私はそう言って紙袋を持ってキッチンに行く。兄は着替えのために2階の自分の部屋へと入っていった。

 絵描きモードに入っていない間、家事は私の仕事だ。あらかじめ煮込んでおいたスープを火にかける。

 それから紙袋の中身を取り出して並べてみた。総勢18箱。いくつかは義理にしてはきれいで立派な箱が入っていた。

 その中のひとつを手に取り、細いリボンをほどくと、中にはおしゃれな模様のついたトリュフが入っていた。ひとつつまんで口に放り込むとすぐにかみ砕き、2個目に手を伸ばす。洋酒のいい香りが鼻に抜ける。

 ごちそうさま。毎年おいしくいただいています。

 心の中でそっと手を合わせる。兄はもらってきたチョコレートを食べることは絶対にない。全て私にくれる。私が喜んでいると思っているから、そのためだけに受け取っているのだ。

 そして私はお返しに兄の好きなアップルパイを毎年用意する。兄はそれだけを食べる。今年ももちろん作ってある。

 階段を降りてくる足音が聞こえる。私は食べ終えた箱をゴミ箱に放るとスープをよそった。





『りんごと君と』


 ふわふわと意識が浮上してくる。ソファでうとうとしてしまったようだ。だんだんと見えてくる光にあわせて、記憶が蘇ってくる。今日は彼女の部屋に遊びに来ていたのだった。

 はっと気づいて彼女の姿を探す。近くにはいない。ドア1枚を隔てた向こうで何かが焼ける音がする。どうやらキッチンで料理をしているようだ。

 溜息をつく。こんな倒れ込んだような姿を見られていなくてよかった。どくどくと心臓がうるさい。

 静かにドアを開けると、真剣な顔でフライパンに向かっているのが見えた。どうやらあれに夢中でこちらの様子には気付いていないようだった。こういう時は大抵、自分のために何かを用意してくれているから怒られないためにも近付かないでおこう。音を立てないように閉めると元の位置に戻った。




「できたよー!」

 彼女が運んできたお皿には、チョコレートソースでハートマークが描いてあるホットケーキがのっていた。不器用な彼女の精一杯の手作りお菓子だ。

「きれいに焼けてるね。おいしそう」

 きっと俺の知らない間に相当練習したのだろう。こちらを見ながら満足そうににこにこしている。これは食べ終わったら盛大に褒めてあげねばと思いながら、一切れ目を口に運んだ。





『fighters』


「この書類、丸山さんでよかった?」

 隣の部署の谷原さんが、海外出張に関する書類を持ってきた。

「これは、角田さんですね。渡しておきます。お急ぎですか」

「いや、普通に処理してくれれば大丈夫……」

 言いながら谷原さんは私の机の一角に気を取られていた。

「それ、バレンタインだからってみなさんがくれるんですよ」

 チロルチョコ、ポッキー、アルファベットチョコ、ガルボ、たけのこの里、チョコボール……コンビニで買えるありとあらゆるものが集まっている。

 本部の中で年齢が1番下なこともあり、皆がおもしろがって置いていくのだ。そうして山になっていく。お菓子好きの私としてはとてもありがたい話だけど。

「すごい山だね」

「まあ、でもこれくらいならすぐ無くなっちゃいますよ」

「そっか、女の子だもんね」

 急に向けられた笑顔と、女の子扱いがなんだか恥ずかしい。落ち着かなくなってしまう。

「あ、谷原さんよかったらこれ、もらってください」

 そんな自分の様子をごまかそうとして、デスクの引き出しから取り出した抹茶のキットカットを差し出す。これは自分が配るように買ってきたものだ。

「日頃お世話になっているので……」

 谷原さんは一瞬面食らったような顔になったが、すぐに笑顔になるとありがとう、と言って受け取って自分の席に戻っていった。

 すぐに背中を向けてしまった谷原さんの表情はわからなかったが、自分の願望か、心なしか足取りが弾んでいるように見えた。





『約束の夏』


 陽平が小学校から帰るとテーブルの上に荷物が置いてあるのが見えた。何気なしにちらりと目をやると、差出人はいずみになっていた。さらによく見ると宛先は陽平になっていた。

 ランドセルもおろさず、手も洗わないまま、ガムテープをはがして箱を開けると、さらに小さいブルーの箱と手紙が出てきた。

「陽平、いずちゃんからの荷物なんだった?」

 庭で草むしりをしていたはずの母親がにやにやしながら覗きに来た。

「さあ」

 見られないように段ボールから素早く取り出すと、階段を駆け上がっていった。





『見えない距離感』


 塾の後、友人たちと夕食をとってから家に帰ると、珍しくダイニングの明かりがついていた。ドアを開けると杏がイスに座ってスマホをいじっていた。

「おかえり、今日は遅かったね」

 画面から目を離さずに杏が声をかける。

「友達と飯食ってきたから」

 休憩時間に国公立の二次試験の話で盛り上がり、熱が冷めず、そのままファミレスになだれこんだ。思ったよりも遅くなってしまった。

「……女の人?」

「拓たちとだけど?」

 意図を計りかねたが、素直にそう答えると杏の口角が上がったように見えた。

「あ、そうだ。オレンジピールにチョコレートかけたの作ったんだけど、慎一くん食べる?」

「あ、ああ」

 疲れている時の甘いものはありがたい。

「冷蔵庫に入ってるから好きなだけ食べていいよ。じゃあ、おやすみ」

 そう言って自分の部屋に戻っていく。もしかして、自分にそれを言うためだけに起きていたのだろうか。終始こちらを見なかったからよくわからないが、名前を呼んでくれていたので機嫌は良かったのだろう。気にしないことにした。





『告白』


 私はかばんに潜ませたチョコレートの箱を確認すると、深呼吸をした。今日はきっと勝負の日になるだろう。結果がどちらに転んでもすっきりするのだ。

 呼び出した時間まであと少し。なんとなく落ち着かずにかばんの中をちらりと覗き見ると、上品な薄い緑色の箱が私にがんばれと言っているように思えた。

 生意気な口を利くようになったが、真面目で誠実で仕事ができて、飲みにもよく付き合ってくれて、公私ともに信頼できる後輩の顔が思い出された。ある日、飲みながらもう限界だと半分やけになって愚痴っていた私に、バレンタインにチョコレートを渡して正直な気持ちを伝えましょうと言ってくれた。さらに、後日チョコレート選びにも付き合ってくれた。

「まどか、待たせてごめん」

 いつの間にか約束の時間になっていた。少しだけ緊張したような顔をした彼がそこにいた。

「ううん、いきなり呼び出してごめん」

 かばんの紐をぎゅっと握る。さあ、私の幸せを真剣に願ってくれたあの子のためにもがんばろう。






ハッピーバレンタイン♡
(誰か私にチョコレートください……!)


スポンサーサイト

C.O.M.M.E.N.T

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2015/02/15 (Sun) 15:01 | # | | 編集 | 返信

Re: NoTitle

鍵さま


コメントありがとうございます。

バ、バレンタイン似合ってますか?
(書いてる本人は超絶無縁な人間なのですが……)

世界観も執筆ルールもばらばらな作品を振り返るのはわりと大変だったのですが、楽しんでいただけたようで何よりです。ぜひ鍵さまもチャレンジしてみてください。

例のやつも進めておりますので、もうしばらくお待ちくださいね。

2015/02/15 (Sun) 19:05 | 吉川蒼 #- | URL | 編集 | 返信

NoTitle

この間は来ていただいてありがとうございました!

ショートショート読ませていただきました。
素直に言いたいことを言えず、照れてる女の子がみんな可愛いですね^^


また遊びに来ます(・∀・)

2015/02/15 (Sun) 23:14 | タンパク #- | URL | 編集 | 返信

Re: NoTitle

タンパクさま

こんにちは。コメントありがとうございます。
恋してる女の子萌え!なので、ついついかわいく書いてしまいます。
特に杏は慎一に恋愛感情持ってないのに、がんがんツンデレ発動してくれるのでとても楽しく、調子に乗って書きました。
かわいさが伝わっているようでうれしいです。

ぜひまたいらしてください。

2015/02/16 (Mon) 17:55 | 吉川蒼 #- | URL | 編集 | 返信

コメントの投稿

非公開コメント

トラックバック