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2014_03
02
(Sun)14:09

『星がおちたら』

遠距離恋愛の話。




 



『空から降ってきた流れ星を捕まえたので、今回はこれを花織に送ろうと思います』



 たった一言のメールに添えられていたのは、金平糖の写真だった。花織が今までの28年間で知っている金平糖とは違い、薄くて柔らかい上品な色をしている。流れ星云々の件は正直どうでも良かった(むしろ送り主の得意気な顔がちらちらして鬱陶しかった)が、珍しくセンスのいい贈り物に少し機嫌が良くなる。

 花織の恋人である夏彦は、一年中あちこちをふらふらしている。フリーライターというやつで、そこそこ需要があるらしくそれなりに仕事をもらえて忙しくしているようだった。

 そしてこうして取材に行った先からたまに連絡を寄越してくる。

 
『この辺りで有名なアイスクリームです。花織にも食べてもらいたいおいしさ!』


『ここはある人が恋人の死を見届けたとされるとされる場所。なんだか俺も泣きそうです』


『今回は魔除けの人形を送ろうと思います。花織にちょっと似てるでしょ?』


 ただし、居場所が特定できる情報は絶対に書いてこない。それは最初に2人で決めたルールで、夏彦はそれを律儀に守っていた。普段おちゃらけた男のくせに、そういうところをきっちり守っているあたりがなんだか腹立たしい。理不尽だと思いながらも、花織はついかわいくない返信をしてしまう。
 

『ダイエットの邪魔しないでください』


『30近い男がそんなとこで一人で泣いてたら完全に不審者でしょ』


『覚えてろ』


 ただし、今回は一生懸命悩んで贈り物を選んだであろう恋人に少しだけ態度を軟化させようという気になった。そんなのは多分言い訳で、大分辛くなってきているのかもしれない。メルヘンメールに乗った体で返しつつ、思い切り本心をこぼしてみた。


『星は見飽きています。早く天の川を越えてきて』


 会いたい、とは書けなかった。書いてはいけなかった。でもこれくらいなら許されるだろう。そう思いながら部屋のカレンダーをめくる。

 あとひと月。このじめじめとした鬱陶しい季節を抜けて、本格的に夏の気配を感じるようになったら、夏彦に会える。それまでは今まで通り、ひとりで過ごさなければならない。

 花織は携帯をカバンにしまうと、甘ったるいモードになりかけた脳みそを切り替えて、仕事に出かけた。





「久しぶり。元気だった?」

 深夜0時頃。花織が指定されたホテルの一室に向かうと、一年振りの再会にも関わらず、あっさりと出迎えられた。

 花織は内心がっくりきながら、会わない間のメールのやり取りで話題に出た品々を詰めた旅行カバンを差し出す。

「まあ、それなりに。ご希望の本、お菓子その他もろもろ全部持ってきたよ。これ……」

 受け取ってよ、と伸ばした腕を引かれ、強く抱きすくめられた。カバンは受け取られることなく、床に落ちていった。懐かしいにおいに、ぬくもりに、心が一気に溶けていく。鼻の奥がツンとして抑えていた思いが溢れ出す。

「花織……」

「……会いたかった。会いたかったよ、夏彦さん」

「うん。俺も。花織……」

 耳元で聞こえる少し掠れたその声に、ますます息が苦しくなる。わあわあと泣き喚く自分の声がどこから出ているのか不思議だった。

 腕が緩められて、背中に軽い衝撃を感じて、夏彦の向こうに天井が見えたと思ったら、もうそこから先はよく覚えていない。





「なんか、今年はいきなり余裕ない感じで、ごめん。最近仕事が忙しくて弱ってたのかも」

 ベッドの中でのんびりと過ごす時間になってから、夏彦に謝られた。

「イエ、オタガイサマデスノデ」

 花織もいつになく泣き喚いて取り乱した覚えがあるので、気恥ずかしい。

「毎年思うけど、いつまで続くんだろうね。これ」

「……天帝が私たちの魂を忘れるまで、もしくは力を失うまでじゃない?」

 花織が口にした名に、夏彦の顔がゆがむ。

「あのじいさん、いつまで現役でいるつもりだろ。こっちは何度変わったか数えられないくらいなのに」

「でも若様に代わったら、下手すると行動範囲だけでなくてメールとかも規制されちゃうんじゃないかと思う。人間社会の研究に大分熱心らしいし」

「それは困る。電話やらメールやら時代が俺たちに味方するようになったのに」

 そしてじっと見つめられ、額にひとつキスを落とされて抱きしめられる。体温が上がる。この人が好きだと心いっぱいに叫んでいる。

 このたまらなく幸せな時間は長く続かない。それでも、お互いにお互いを唯一と決めて随分と長い時間を過ごしてきたし、どれだけ苦しくても辛くてもその選択を覆すことはこれから先も無い。





「じゃあまた、一年後、七夕の日に」

 そうしてお互いの手を離し、別々の日常へ帰っていく。

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C.O.M.M.E.N.T

こんばんわ

「星がおちたら」を読ませて頂きました。
とても面白かったです。
まとめ方がおお!すごいなぁって思いました。
お話が書ける方っていいなぁ・・・本当にすごいなぁと思います。
タイトルもすてきですね。

2015/06/25 (Thu) 23:43 | 秋朝 ヨウスケ #- | URL | 編集 | 返信

Re: こんばんわ

秋朝さま


こんにちは!コメントありがとうございます。

おもしろかったと言っていただけて、とてもうれしいです。
タイトルまでお褒めの言葉をいただきまして…すごく悩んでつけた甲斐がありました。

私からしたら絵を描ける方がすごいなあと思います。
またブログにも遊びに行きますね!

お時間あるときに当ブログにもまたお越しください。

吉川蒼

2015/06/27 (Sat) 14:35 | 吉川蒼 #- | URL | 編集 | 返信

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