--_--
--
(--)--:--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2015_01
05
(Mon)00:51

『告白』

恋人がいる人を好きになってしまった人の話。








「私、結婚するんだ」

 会話がふと途切れた後に、静かに滑り落ちたその言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。グラスを口に運ぶ手が一瞬止まってしまい、中の氷がからりと音を立てた。

 カウンター席の隣に座る結城さんは、照れているのかグラスを握りしめて前を向いたままだ。2人の間にゆったりとしたジャズのメロディだけが流れる。

「……おめでとうございます。相手は例のボランティアさんですよね」

 とっさに口をついて出た自分の言葉はひどく遠くに聞こえた。それ程に自分の心臓の音がうるさかった。

 だから彼氏だって言っているでしょ、といつものように返してくる結城さんを適当にあしらい、ひたすらに飲んだ。余計な言葉が出てこないように、全部酒と一緒に自分の中に押し戻した。その日の記憶はそこで途切れている。





 結城さんと初めて会ったのは2年前、新入社員として配属された時だった。

「結城です。4年目で、君のシスターやります。よろしくね」

 声のきれいな人だな、というのが第一印象だった。そして差し出された手を勢いに押されて掴んでしまい、そのなめらかさに驚いたのを今でもよく覚えている。
 
「桂木です。よろしくお願いします」

 緊張しながらそれだけを言った気がする。

「まあ、気楽にやろうよ」

 そう言って肩を叩かれた時、何かのスイッチが押されてしまったのだと思う。

 仕事にも慣れて、結城さんとも冗談を言い合えるようになったくらいのある日、飲みに誘われた。彼女の行きつけだというちょっとおしゃれな居酒屋で食事をし、その後はこれまた行きつけだというバーに行って2人で飲み直した。
 
 それなりに酔っていたし、だらだらと雑談するのはとても楽しかった。だから、油断していたのだと思う。

 狭い店内で隣に座る彼女からはいい香りがした。バニラのような甘い香りだった。わずかに触れ合う肩先からは彼女の少し高めの熱が伝わってきた。意識してしまったら、アルコールのせいでなく頭がくらくらしてきた。

 そんな自分の様子には気付かずに、いい感じに酔っ払った結城さんが語ったのは恋人の愚痴だった。今までに見たことが無い表情で、聞いたことが無い甘い声で、小さな不満を並べながら、グラスをくるくると回す彼女はただただかわいらしい女性だった。

 適当に受け答えをしながら、自分に絶望していた。胸を刺す痛みの理由をはっきりと理解してしまったからだった。

 自覚してからは坂を転げ落ちるようなものだった。彼女への思いが募るにつれて、ただひたすらに苦しくなっていった。





 真っ白なドレスを着た結城さんを眺めていると、今までのいろいろなことが嵐のように思い出された。式は滞りなく順調に進められている。自分の心の中だけが踏み荒らしたようにぐちゃぐちゃだった。

 彼女が同僚全員に打ち明けた時も、それから事あるごとに結婚の話題になる時も、内緒でお祝いの用意の相談をする時も、式の招待状を受け取った時も、自分はちゃんと笑えていた。

 大丈夫だ。無事に乗り越えられる。現に今もお祝いをする同僚の振りをして、招待客としての役割を淡々とこなせている。

 深呼吸をすると、どこからかわずかに甘い香りが流れてきた。彼女のそれとは違ったけれど、ふいに息が詰まるような感じがした。

 ―――辛い。苦しい。悲しい。

 感じる甘さとは裏腹に、苦いものが全身に広がった。

 まずいと思い、とっさに口を押えた。何かが溢れ出しそうだった。

 その時、わっという歓声に顔を上げると何かが自分の目の前に飛んで来た。驚きのあまり、思わず手に取ってしまったそれは、花束だった。一斉に注目され、拍手が巻き起こる。自分のことに気を取られている間に、ブーケトスが行われていたようだった。

「おめでとうございます! お名前をお願いします」

 司会者がにこにこと近づいてきて、マイクを差し出してくる。

「か、桂木美花です」

 自分のこわばった声が響く。

「桂木さん、今のお気持ちとおふたりへのお祝いの言葉をお願いします」

 再びマイクが向けられる。考えている余裕はなかった。

「びっくり、しました。ご結婚おめでとうございます……」

 声が、震える。

 ふと気付くと、司会者の向こうに彼女がいた。いつものように微笑んでいる。

 とてもきれいだった。それを見たら、考える前に口が動いていた。

「結城さ、いえ、まどかさん……仕事でいつもお世話になっていて、仕事以外でも仲良くしてくれて……大好きです。幸せになってください」

 そうして頭を下げる。拍手が起きる。顔を上げると、彼女の目が潤んでいるのが見えた。それもだんだんとにじんでいく。

 自分も泣いていた。涙があふれて止まらなくなった。

 ただの後輩にしかなりえない自分の精一杯の告白だった。

スポンサーサイト

C.O.M.M.E.N.T

初めまして

こんばんわ、検索サイトから参りました。
好きな人に恋人がいるというのは辛いなと思います。
人を好きになるというのは素敵なことなのに尚更です。
切ない話を有難うございました。

2015/03/21 (Sat) 22:41 | ネリム #IP/sRWwE | URL | 編集 | 返信

Re: 初めまして

ネリムさま


はじめまして、こんばんは。いらっしゃいませ。
コメントありがとうございます。

今回は主人公も辛い結果になってしまいましたが、この経験を乗り越えて素敵な恋をする予定です。

またぜひ遊びに来てくださいね。

2015/03/22 (Sun) 22:27 | 吉川蒼 #- | URL | 編集 | 返信

コメントの投稿

非公開コメント

トラックバック

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。