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2014_08
18
(Mon)20:00

コラボ企画第1弾『約束の夏』

コラボ企画第1弾。吉川のプロットのお話です。









 陽平は両親とともに夏休みを利用して、祖父母の家に来ていた。実に数年ぶりで、前に会ったのは幼稚園の頃という祖父母の顔はあまりよく覚えておらず、優しく出迎えられるのが気恥ずかしくて、どうしていいかわからなくて、ついそっけない態度を取ってしまった。それを母に咎められ、思わず飛び出してきてしまった。

 見知らぬ土地の、見知らぬ公園の、土管の中。

 陽平は蝉の鳴き声を聞きながらうずくまっていた。ここなら誰にも見えないし、直射日光は避けられる。

 ただ、たらたらと汗が流れてくる。Tシャツも背に張り付いて気持ち悪いし、組んでいる腕と膝が接している部分がぬるぬるする。

 それでも動けない。まだ家には帰りたくなかった。

 そうしていつの間にか蝉の声が止み、雨が降りだす音が聞こえた。一瞬、しまったと思ったが、すぐにどうでもよくなった。

「何をしているの?」
 
 どれくらい時間が経った時だろうか。明らかに自分に向けられている質問が降ってきた。

 陽平が顔を上げると、セーラー服の少女が覗き込んでいた。
 
「ねえ、どうしたの? もしかして、迷子?」
 
 少女がもう一度問う。のんびりとした柔らかい声が、頭にいやに残る。
 
「別に」
 
「迷子なら、一緒におうち、探してあげようか」
 
「ほっとけよ」
 
 そっぽを向く陽平の顔を、彼女はじっと見つめる。
 
 向けられる視線に居心地が悪くなって、陽平が文句を言おうとしたその時、彼女があっ、と声を上げる。
 
「もしかして、佐川のおばあちゃんの孫の陽平くん?」
 
 思わず振り返ってしまった陽平の様子を肯定ととらえたようだ。
 
「あ、当たり? わたし、お向かいに住んでる北森いずみ」
 
 いずみはにっこりと笑う。そして少しだけ視線を外して考えるような素振りを見せる。
 
「わたし、今から家に帰るんだけど、雨が降って暗くなってきて怖いから、一緒に帰ってくれるとうれしいな」
 
 そうして傘を陽平のほうに傾ける。出て来いということだ。
 
「ね、お願い」
 
 片手を立ててお願いするポーズを取っている。

 仕方ない、陽平は自分にそう言い聞かせながら土管から一歩踏み出し、いずみの横をすり抜けていく。
 
 かすかに吹いている風と雨粒が体を伝っていくのが心地いい。
 
「傘はいらない。ついてくるならついてきたら」
 
 そう言ってさっさと歩きだす。いずみが後ろをついていく。

「ねえ、道覚えてるの?」

「……1回通れば覚える」

「すごい! わたし方向音痴だから慣れた道以外は怖くて歩けないよ」

 閑静な住宅街にころころと笑ういずみの声と雨音だけが響く。
 
「一緒に入らない? 寒くない? 風邪ひくよ?」
 
「平気。暑かったからちょうどいい」
 
 狭い歩道で縦になって歩いているため、後ろからいずみが張り上げるようにして声をかけてくる。
 
「ねえ、陽平くんは何年生?」
 
「……5」
 
「そっか。わたしは中学2年生」
 
 いずみは楽しそうに続ける。

「しばらくいるの?」
 
「2週間くらい」
 
「またお散歩する?」
 
「気が向けば」
 
 陽平が素っ気なく答えるのに質問は続いていく。
 
「本当に覚えてるんだね。あの公園からの道、結構複雑なのに」
 
「あんたが物覚えが悪いんでしょ」
 
 母との件のもやもやから、きつい言い方をしてしまった。陽平がちらりと振り向くと、いずみはそれもそうだねと気を悪くした風でもなく笑っている。

 変な奴、それが陽平がいずみに抱いた印象だった。

 一問一答を繰り返しながら歩いていくと、陽平の祖父母の家の前に着いた。いずみも立ち止まる気配があった。

「わたしのうち、ここなの」

 そう言って指差すのは、真向いの家だった。

「一緒に帰ってくれてありがとう。じゃあね」

 それだけ言って小さく手を振ると、門を開けて家の中に入っていった。陽平は、なんとなくドアが閉まるまで見ていた。





 次の日の夕方、陽平が近所のコンビニまで行った帰り道、いずみに出会った。昨日と同じピンク色の傘を差している。
 
「こんにちは、陽平くん」

 気付いたいずみが駆け寄ってくる。なんとなく恥ずかしくて、待たずに歩き出した。そのななめ後ろをいずみがついてくる。

「なんで雨降ってないのに傘差してるんだ?」

「これね、大きいけど晴雨兼用。日傘でもあるんだよ。涼しいよ。一緒に入る?」

「いやだ」

 えー、残念と言いながら楽しそうに笑っている。

「夏休みじゃないのか。なんで制服着てるんだ」

「うんとね、補習に出てるの。日数足りなくて」

「さぼりか」

「まあ、そんなとこ!」

 にこっと笑ういずみに、陽平はため息をついた。

「そんな自慢げに言うことじゃないだろ」

「いいのいいの。陽平くんは? 買い物?」

「限定のアイス食べたくて。駅の近くのコンビニまで行ってた」

「えっ。あっちのコンビニにも行けるの? すごいね」

 心底驚いたような言い方をするいずみに逆に陽平が驚く。

「あんた、逆に行けるとこってどこがあるの?」

「学校、公園、図書館、病院かな。ちょっと遠くても知ってる場所なら行けるよ」

「もったいないじゃん。このへんいろいろおもしろいところあるのに」

「そうなの?」

「そうだよ。おれ、2日目だけど探検してるからこのあたり結構わかったよ」

「そうなんだ。うらやましいな」

 その声が少しトーンが落ちた気がしたが、いずみは続けて昨日と同じように質問を繰り返した。

 話してみると、好きなお菓子、好きな漫画、好きな動物、共通点は意外とたくさんあった。陽平からもぽつぽつと質問するようになっていた。

「あら、もしかして、いずちゃん?」

 家の前に着くと、買い物から帰ってきたらしい陽平の母が車から降りてきたところだった。

「あ、おばさん、こんにちは。お久しぶりです」

 いずみがはしゃいだ声を出す。

「なに、陽平と一緒だったの?」

「はい。偶然会って」

「そっか、仲良くしてね。最近は、大丈夫なの?」

「はい。前よりは、全然」

 陽平を取り残して2人の会話が進んでいく。

「うちでお茶でも飲んでく?」

「いえ、今日は帰ります。ちょっとふらふらし過ぎたんで」

「そっか。残念。また来てね」

「はい。ぜひ」

 そう言っていずみは家に戻っていく。

「母さん、いずみのこと知ってたの?」

「もちろん、前に来た時も会ってるからね。優しいお姉さんでしょ?」

「ただの方向音痴だよ」

「またそんなこと言って。遊んでもらうのはいいけど、無理なことは言っちゃだめだからね」

「はいはい」

「返事は1回!」

 陽平は車から買い物袋をひとつ出すと、家に入っていった。





 その日から、特に約束したわけではなかったが、夕方近くになるといずみと陽平で散歩をするようになった。陽平はいずみが外を歩いていると必ず見つけた。


 大きな木の木陰が心地いい神社。

 美人なねこがいる空地。

 100円のジュースの自販機。

 きれいなドレスを着た人形がたくさんディスプレイされている店。


 毎日、いろいろなところを少しずつ見てまわった。

 いずみはほとんどの場所を知らなかったらしく、どこへ行っても喜んだ。すごいね、ありがとう、そう言ってはしゃいでいた。





 今日は、公園より少し上ったところにある高台に来ていた。少しずつ日差しがやわらいで、町の影が伸びていくのが見える。

「な、きれいだろ」

 さらに階段を登ったところにいる陽平は、下にいるいずみに声をかける。

「うん。こんなところがあるなんて知らなかった」

 振り仰いだいずみの顔を見て、陽平はどきりとした。体が熱くなってくる。それを打ち消すように大声を出した。

「今度はどういうとこに行きたい?」

「うーん。特に、ないかな」

「は? なにそれ。どこでもいいよ。連れてってやる」

「難しくって、困っちゃうなあ」

 いずみはそう言って笑った。そうして前に向き直る。

「陽平くん、今日は、そろそろ帰ってもいいかな」

 前を向いたまま声を張り上げるいずみに、陽平は、別にいいよ、とだけ答えた。





 帰り道、湿った風が吹いてきて灰色の雲が低く広がってきたと思ったら、ぽつりぽつりと道路を濡らし始めた。

 サーッという音とともにあっという間に地面が濃い色に染まる。

「本当にこのへんは雨が多いんだな」

「うん……そうだね」

 陽平も慣れたもので、持ってきた折りたたみ傘を広げながら歩いていく。

「まあすぐに晴れるだろ」

「そうだね」

「明日はどこに行く?」

 返事が無かった。その代わりにドサッという音が聞こえた。陽平が振り返ると、ピンクの傘がころころと転がっている。その向こうに、横たわるいずみが見えた。

「いずみっ!」

 駆け寄って抱き起こしたが、返事は無い。真っ白な顔をしている。重大なことが起きていると思った。

「いずみっ! いずみ……だれか、だれか来てっ!」

 陽平は、自分でも信じられないくらいに慌てていた。心臓が痛いほど鳴っている。頭が真っ白で何も考えられなかった。

 幸い、通りかかった自動車に乗っていた女性が救急車を呼んでくれた。

 救急車に乗って、隊員の処置が始まっても陽平はいずみの名を呼び続けていた。そうして呼んでいないと、いずみがどこかに行ってしまうような気がして怖かった。

 病院に着くと、いずみはどこかへ連れていかれて、陽平はひとりロビーに残された。そこで名前や家や聞かれたことはすべて答えた。タオルを渡されたが、被るだけで何もする気が起きなかった。雫が落ちる様子だけをぼうっと眺めていた。

 いずみの母と陽平の母が到着するまで、ずっとそうしていた。時間が止まっているのではないかと思えるような長い時間だった。陽平は母の顔を見るなり、声を上げて泣いた。母は何も言わずにひたすら陽平を抱きしめた。





 その次の日、母からいずみは大したことは無いが、少しだけ入院するのだと聞いた。いずみのお見舞いに行こうと言われたが頑として首を縦に振らなかった。


 あの時、無理をさせなければ倒れることはなかったのに。

 あの時、隣を歩いていればもっと早く気付けたかもしれないのに。

 あの時、自分でもっと早く救急車を呼べていたらよかったのに。


 そんな後悔の念がぐるぐると陽平を責める。会うのが怖かった。いずみの母が嫌な思いをさせてしまってごめんねと謝りに来たが、それでも、陽平の心が軽くなることはなかった。目を閉じるたびにいずみの真っ白な顔がまぶたの裏に見えた。

 そして家に帰る前日、母から手紙を渡された。いずみからだった。


  陽平くんへ

  びっくりさせちゃってごめん。わたしはもう大丈夫です。

  体のこと言ってなくてごめん。最近は本当に調子がよかったの。

  陽平くんと遊んだ1週間ちょっと、とても楽しかったよ。いい思い出をありがとう。

  向こうへ帰っても元気でね。

  さようなら。

  いずみより


 読んだ瞬間、怒りが湧いてきた。後悔していたことなどすっかり忘れていずみに腹を立てた。

 いい思い出をありがとうってなんだ。さようならってなんだ。

 手紙をくしゃくしゃに丸めて部屋の隅に放り投げた。それでは収まらず、近くにあった座布団も投げた。

 視界がぼやけてくる。汗ではない水滴がぽたぽたと畳に落ちる。

 目元を乱暴に腕でぬぐうが、あとからあとからあふれてきりがない。

 
「うーん。特にないかな」

「難しくって、困っちゃうなあ」


 ふと浮かんだのはあの時のいずみの顔だった。いてもたってもいられなくなり、家に帰る準備をしている母のところに行くと、半ば叫ぶように告げた。

「母さん! デパート連れてって。あと、お金貸して。向こう帰ったら貯金箱から返すから。それと、いずみのところに、連れてって」
 
 陽平の母は優しく笑って、いいよ、とだけ言った。





 陽平は病室の前に行くと、いずみの名のネームプレートを確認し、一度だけ深呼吸をして、がらっと勢いよく扉を開けた。

 その音で窓の外を眺めていたいずみが、陽平に気付いた。

「陽平くん?」

 いずみの顔は真っ白だったが、あの時のような怖さはなかった。しかし、細くて今にも折れそうな腕には点滴がつながっており、彼女をここに縛り付けているようだった。

 陽平の胸がつきりと痛む。

 つかつかとベッドに近づき、薄いブルーの傘を差し出す。そして驚いてまんまるな目を向けるいずみをまっすぐに見返して言った。

「これやる。おれはもう帰らなきゃいけないけど、来年も来る。その時はまた一緒に歩いてやるから、元気にしてろ」

 何も言えずに固まっているいずみの手にそっと載せる。

「青ならおれも入れるし」

「……うん」

「なんなら、おれが持ってやってもいいよ」

「うん」

「次は、ちゃんと隣を歩くから」

「うん」

「いずみのために買ったんだ、この傘」

「うん」

「来年おれがまた来るまで大切に使えよ」

「うん。ありがと……陽平くん」

 いずみは傘をそっと握ると、胸に抱いた。そのまま声を押し殺して泣いている。

「ああ、もう! 泣くなよ。泣いてたら元気が出ないだろ」

「違うの! うれしくて、泣いてるの。大丈夫。絶対元気になる」

 涙まじりでぐちゃぐちゃだったが、いつもの柔らかい声ではなく、芯のしっかりした声だった。

 いずみの母は、2人の見えないところでそっとハンカチで目元を抑えている。陽平の母も歯を食いしばって無理矢理に笑顔を作っている。

「約束だからな。破ったら、怒る」

「大丈夫! 約束」

 いずみは点滴のつながっていないほうの手の小指を差し出す。陽平も素直に応じた。

「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます、ゆびきった!」

 楽しそうないずみの声と、ぼそぼそと歌う陽平の声が病室を満たす。いずみの母が陽平の母にそっと頭を下げていた。





 陽平は母に連れられて、病室を後にした。送り出す時のいずみはとても穏やかな顔をしていた。

 次の夏の約束がある。それだけでいずみの心には火が灯るようだった。じんわりとあたたかい。今までに感じたことが無い高揚感だった。

 横になったいずみは傘を枕元に引き寄せて、目を閉じる。1年後、背が伸びて、憮然とした表情で傘を持つ陽平が隣にいるのを想像して、少しだけ笑った。

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2014/08/19 (Tue) 01:52 | # | | 編集 | 返信

NoTitle

こんにちは。はじめまして。
機島永介さんのところから飛んできました。
機島永介さんのもとても素晴らしかったですが、
こちらもいいお話ですね。
同じ陽介といずみなのに、書く人が違うとかなり印象が違いますね。
機島さんのところでは、映画化できそうと書いたのですが、
こちらはジブリが映画化してくれそうです。
(もしジブリがお嫌いでしたら申し訳ありません)
良いお話をありがとうございました。
あと、リンクさせていただきました。
また遊びに来ます。

2014/08/19 (Tue) 06:57 | Sha-La #41Gd1xPo | URL | 編集 | 返信

Re: NoTitle

鍵さま


楽しんでいただけてよかったです。
いずみちゃんと陽平くんにはちょっとした秘密があるのです。
明日公開しますので、もっと驚いてくださいね。

登場人物の性格も関係性も出てくる小物も場所も全然違う物語でありながら、同じ感情の流れになったのは驚きでした。おもしろいですね。

今日の作品も楽しみにしています。

2014/08/19 (Tue) 19:57 | 吉川蒼 #- | URL | 編集 | 返信

Re: NoTitle

Sha-Laさま


こんにちは。はじめまして。ようこそお越しくださいました。
お褒めの言葉ありがとうございます。

実はジブリの色や、音や、風の感じを想像しながら、「画」をかなり意識して書いたので、ジブリが映画化してくれそうというコメントにはとても驚きました。そしてすごくすごくうれしかったです。

よろしければまた遊びに来てくださいね。私もSha-Laさまのところに遊びに行きます!

2014/08/19 (Tue) 20:01 | 吉川蒼 #- | URL | 編集 | 返信

初めまして

こんばんは、はじめまして!

機島さんのブログからの訪問になります、未定と申します、以後お見知りおきをm(_ _)m

コラボ企画、素敵な発想です!
そして、物語も読ませていただきましたよ。

びっくりしました!機島さんとは真逆な印象すら受けました!
優しくて、しっとりとした雰囲気、夏なのにどこか涼しげでほっこりしました。

2人だけの世界観が、とても色濃く感じられた気がします!

……と、ここまで書いてあれですけど、私、活字読まない人なので、完璧なド素人の感想です(´・_・`)

でも、それだけに本心です
『……あぁ、いいなぁ、2人……』
と思いました(*´▽`*)

押しつけない文章に、どこか2人を気遣う優しい心が見え隠れする素敵なお話でした。

もし、ご迷惑でなければ、またお邪魔させていただきます、今後もよろしくお願いします。



2014/08/19 (Tue) 20:14 | 未定 #felOlmBA | URL | 編集 | 返信

Re: 初めまして

未定さま

こんばんは。はじめまして。
ようこそいらっしゃいました。

実は私、未定さまのブログにちょくちょくお邪魔しているんです。たくさん更新されていてすごいなあと思っていました。いまだに更新に追いつけておりません。そして、スピード感のあるテンポのよい文章を書かれるのでうらやましく思っております。キャラも生き生きしていてとってもかわいいし。

来ていただけてうれしいです。迷惑なんてとんでもないです。また遊びにいらしてくださいね。

2014/08/19 (Tue) 20:48 | 吉川蒼 #- | URL | 編集 | 返信

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