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2014_07
08
(Tue)22:22

『りんごうさぎと君と』

『りんごと君と』の隙間のエピソード。幸せな時間の話。








「できたよー!」

 キッチンから得意気な君の声が聞こえる。ぱたぱたとスリッパの音を立てながら持ってきたのは、りんごが盛られたお皿だ。

「ままーこれなにー?」

 娘が興味津々で皿の中を覗き込む。

「りんごのうさぎさんだよ。ほら、長いお耳があるでしょ」

 君がひとつつまんで目の前に差し出すと、娘の目が見開かれる。落っこちるんじゃないかという勢いに思わずくすりとしてしまう。

「あーほんとだー! すごぉい」

 テーブルに手をついて、ぴょんぴょん飛び跳ねている。初めて見たりんごうさぎに大興奮だ。

 君が手に取ったそれを、娘のお気に入りの皿に入れてやると、食べずにすごいすごいと言いながら皿の中でくるくる回して眺めている。

「へえ、がんばったね」

「私だってやればできるんだよ」

 褒められるためか、わざわざ俺の隣に腰を下ろした君は、腰に手を当ててふんぞり返っている。にっと笑うその顔はいたずらが成功した子どもみたいだ。

「確かに、前に比べるとすごい成長したよね」

 以前は、りんごの皮を剥くのはおろか、ただ半分に割るのさえ、見てるこっちが悲鳴をあげそうになるくらいひどかったのに。

「あ、ねえ、ちょっと! そんな遠い目をしないでよ。どれだけ昔を思い出してるの?」

「君がりんご割るのさえ命がけだったころ」

「そんなにさかのぼらなくていいから! ってか、そこまでひどくなかったし!」

 はいはいと言って、憤慨する君の頭をなでてあげると不機嫌が一転、笑顔が戻る。こういうところはいつまで経ってもかわいい。

「ままー! すごいねえ、このりんごのうさぎさん、もこもこしてるー」

 急に大きな声を出した娘の言葉に、2人で顔を見合わせる。

「もこもこ?」

 不思議に思い、ひとつ手に取って見てみると、なるほど娘のセンスには脱帽だ。ただのがたがたのりんごをもこもことはよく言ったものだ。

 意味がわかった瞬間、思わず吹き出してしまった。

「そんなに笑わなくたっていいじゃないの……」

 君も気付いたようで、少し恥ずかしそうにじっとこっちをにらんでいる。

「いや、だって、も、もこもこって……君が下手なだけなのに。優しい娘だなって」

 悪いと思いながらも、笑いが止まらない。娘はぽかんとした顔で俺を見ている。

「ご、ごめん……ぐっ、げほっげほっ」

 笑いすぎてむせてしまった。口元を抑える俺に君の表情が一変する。

「どうしたの! 大丈夫?」

「大丈夫。笑いすぎてむせただけだよ」

 俺の腕をつかむ君の手が痛い。肩を優しくたたいてあげると、指先から少しずつ力が抜けていく。

「なら、いいけど……それ食べたら、薬、忘れずにちゃんと飲んでね」

「もちろん、わかってるよ。ありがとう」

 それと、ごめん。心の中だけでそっと謝った。

 俺のせいで、君は影に覆われている。その影は普段見えないくせに、のんきで明るい君から一瞬で笑顔を消し去ってしまうほど、君のことを蝕んでいる。

 君はいつになったら不安から逃れられるんだろう。

 本当は、もっとずっと前に手を離してあげられたらよかったけど、俺にはそれができなかった。俺は君にすがりついて、ようやく生きていられる。

 ごめん。ありがとう。大好きです。

 あふれ出しそうな言葉を押し込むように、持ったままだったりんごうさぎを口に放り込んだ。

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