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2014_06
29
(Sun)23:32

『fighters』

働く女子のお話。






「ただいま戻りました」
 
 定時を1時間ほど過ぎた金曜日の今日、会議から戻ってみるとフロアには半分も残っていなかった。
 
「おかえり、まるちゃん」
 
「おつかれ。今日も長かったね」
 
 先輩たちがディスプレイから目を離して、ねぎらってくれる。
 
「ええ、最初の定例報告だけで1時間以上かかりましたから」
 
 ふくれっ面の私に、まわりは苦笑いだ。
 
「まあ、いつものことでしょ」
 
「あの人のことはあきらめなよ」
 
 散々長引かせた上に、会議終了とともにどこかへ姿を消し、戻った気配もない上司の席を見て、ふつふつと怒りの感情が湧いてくる。
 
「10分休憩に行ってきます」
 
 頭を冷やさないと、今からの作業の効率が悪くなりそうだ。
 
「あれ、帰らないの?」
 
 座らずに小銭を持って離れようとする私に、先輩たちが不思議そうな視線を寄越す。
 
「まだ仕事が残ってるんで、今日はもうちょっとがんばります」
 
 今抱えている別プロジェクトのファイルを指差すと、察してくれたようだ。がんばって、と声をかけられる。
 
 
 
 
 
 自販機コーナーに行き、1番手前のカップの機械に小銭を突っ込む。
 
 迷って、結局いつものいちごココアのボタンを押した。まわりには理解されないが、私のお気に入りだ。
 
 10秒ほど待って出てきたカップを取り、ソファに座る。

 まわりに漂う甘い香りを吸い込むと、誰もいないのをいいことに大きくため息をついた。
 
「疲れた……」
 
「お疲れさま」
 
 完全なひとりごとに返事が返ってきた。びっくりしてカップを取り落しそうになる。
 
 その様子を笑いながら自販機にお金を入れるのは、隣の部署の谷原さんだった。
 
「ごめん。俺、驚かせちゃったみたいだね」
 
「いえ、大丈夫です。お疲れさまです」
 
 べたなリアクションをしてしまったことがなんとなく恥ずかしくて、素っ気ない言い方になってしまった。
 
 普段お世話になっている方に対して、若干失礼な態度だったかもしれない。
 
 しかし谷原さんは気にした風でもなく、出てきたカップ(おそらくブラックコーヒー)を持って、私のななめ向かいに腰を下ろす。
 
「今日も大変だったね、会議」
 
 同じ本部に所属する谷原さんは、私の不機嫌の原因となった定例会議にも出席していた。
 
「他の部署の方にまでご迷惑をおかけして申し訳ないです」
 
 馬鹿で考えなしの上司が、という言葉はかろうじて飲み込んだ。
 
「まあ、あの人はずっとあんな感じだから。丸山さんたちが気にすることじゃないよ」
 
 我が上司の無能さは、やはり本部共通の認識のようだ。
 
「中身が無くて長い会議ほど辛いものはないね」
 
「そうですよね。いつも要点だけにしてくださいと言ってはいるのですが」
 
 コーヒーを飲みながらさりげなく言う谷原さんにつられて、つい本音を言ってしまう。
 
「ホント、困ったもんだよね。うちの部内でもさんざんに言われてるよ。助けてあげられなくてごめんね」
 
 さりげないフォローに、この人が有能だと噂される理由が垣間見えた気がする。疲れている時にこの気遣いは沁みる。

「……先輩たちも、谷原さんも大人ですね」

 ぽろっと出てしまった。すぐに表に出てしまう私と違って、みんな、なんやかんや不満を言いながらも、さらりと流して仕事している。それどころか細やかな気遣いまでできてしまう。うらやましい。

「まあ、歳の分かな。でも、酒入ると、後藤くんたちも結構ぼろくそに言ってたりするよ」

「確かに。飲んだ時はみなさん結構辛辣ですよね」
 
 先輩たちは、職場では穏やかに批判するだけだが、お酒の勢いがあるとかなり手厳しい。本人が聞いたら泣いてしまうだろうなと思うくらいに。
 
「最近、飲みに行ったりしてる? ちゃんと発散してる?」
 
「いえ、みなさんご家庭があるので……」
 
 少し前までは、頻繁に飲みに連れていってもらい、愚痴を聞いてもらって、先輩たちの馬鹿話を聞いて、大いに笑って騒いで、それでどうにかこうにか日々のもやもやをリセットしていた。
 
 それが結構心の支えになっていたけれど、先輩たちも結婚したり、お子さんが産まれたりで、そんな機会を設けることもだんだんと難しくなっていた。
 
 最近ちょっとだけ寂しく思っているのは、内緒だ。
 
「よし、じゃあ俺と飲みに行こうか。俺フリーだし、気兼ねするような相手じゃないから都合いいと思うよ。今日はもう上がれそう?」
 
「最低限のことだけであれば、あと30分で片付けられると思います」
 
 いいともだめとも言う前に素直にそう答えてしまった。

「そう。ちなみに食べ物は何が好き?」
 
「お魚です」
 
「了解。いい店知ってるから、紹介するよ。念のために連絡先教えてくれる?」
 
「はい。えっと、090......」
 
 なぜか、早速2人でご飯を食べに行く流れになっている。急な展開に少し戸惑ったが、もしかしたら谷原さんは先輩たちに頼まれていたのかもしれない。なんとなくそんな気がした。本当にみんな面倒見がいいのだから、かなわない。
 
「さて、そろそろ仕事に戻ろうか。ご飯の話したらお腹すいてきた。とっとと終わらせて早く行こう」
 
 時計を見ると、ちょうど休憩を取り始めて10分が経とうとしているところだった。
 
 席を立ち、空になったカップをゴミ箱へ放り込む。
 
「じゃあ、またあとで」
 
「はい。よろしくお願いします」
 
 最大限の感謝を込めて頭を下げる私に、真面目だなあという声が降ってくる。優しいその声が心地いい。
 
 私は残りの仕事を最短で片付けるべく、気持ちを新たにデスクへ戻っていった。

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