2017_03
05
(Sun)01:35

九州コミティア 無料配布

300字前後のお話を3つ書きました。掲載させていただきます。







1.充電
 
 帰ってくるなりソファにごろり。おまけにイヤホンまではめちゃって。

 今日は何があったの。言ってくれればいいのに。

 わたしはマグカップを置いてラグに座ってソファに寄りかかる。カフェオレの香りを吸い込みながら、テーブルの上にあった雑誌を手に取る。

 しばらくすると、頭に何かが触れた。ゆっくりと彼の指が髪の合間をすべっていく。

「なあに」

 見上げても返事もしない。目も合わせない。聞こえてるくせに。

 そっと手に触れると指先が絡まる。ほどこうとしてもそれ以上の強さで追ってくる。

 これではページがめくれない。

「もう、なに?」

「充電」

 それっきりなにも言わない。

 まあ、甘えさせてあげましょう。お疲れのようですしね。





2.数える

 あとひとつ、眠ったら。あとひとつ、呼吸をしたら。

 少女は数える。自分の心臓が止まる日を夢見て。

「どこに行っちゃったんだろう」

 少し前まで一緒に数えていた少年はいつからか気配が無くなってしまった。

 暗闇で生きる少女にとって、彼だけが頼りだった。いつだって彼の声が、彼の指が彼女を優しく導いた。

 彼の隣で数えている間だけは、動いている自分の心臓が不快でなかった。

 だけど、今は。

 少女は耳を塞ぐ。少年がいなくなってから雑音がひどいのだ。

 彼の声を聞き逃すまいと耳を開いていたけれど、耐えきれなくなってしまった。

「寒い……」

 呟くと、柔らかい毛布がそっと肩にかけられ、誰かの声が降ってくる。少女はびくりと跳ねて、思い切り払いのけた。

 気持ち悪い。彼のもの以外のすべてが気持ち悪い。

――早く迎えに来て。

 少女は、数え続ける。





3.最低な日の、最高の出会い
 
 ああ、もう、最低だわ。来たくもないお茶会に呼ばれて、自慢と嫌味を散々に聞かされて、おまけにお気に入りの下駄は鼻緒が切れてしまった。

 人目につかない適当な場所を選んで座り、私は鼻緒を挿げ替えようとする。しかし、なかなかうまくいかない。

「何をなさっているのですか」

 落とされた柔らかい声に顔を上げると、そこにいたのは見知らぬ洋装の男の人。

「鼻緒が切れてしまったから直しているのです」

「貸してください」

 彼は私の手から下駄を奪うと、するするとあっという間に終えてしまった。そして私の足元にそっと置く。

「さあ」

 言われるがままに下駄に足を滑り込ませ、差し出された手を取ると、強い力で引き上げられた。

 心ごと。


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