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2014_03
23
(Sun)18:19

『風の行方』 中編

空から落っこちてきた風神の子と人間のミコの話



 





 その日の午後。ミコは、決してこの部屋に来るではないぞと言って、風神の子を追い出した。突然放り出されてやることもない風神の子は、隣の部屋からこっそりとのぞくことにした。

姿勢よく正座しているミコが見えた。そこへ村人らしき男がやってくる。とても暗い顔をしている。

「ミコ様。女房が伏せっちまったんです。医者も呼べねえし、どうしたらいいのか……」

 大きな男が自分よりはるかに小さいミコに涙交じりに訴える。

「それは大変だな。くわしく聞かせてくれ」

「はい。それが……」

 男は妻の様子を事細かに説明する。

「……そうか。それならばこれを持っていくといい」

 ミコは立ち上がると棚から小さな白い包みを出す。男はそれを受け取ると額を床に着けて、礼を言った。

「ありがとうございます。ありがとうございます」

「ただし、養生するのが1番だ。無理はさせないようにな」

「はい。わかりました」

 そうして去っていく。次に来たのは赤ん坊を抱えた若い女だった。

「ミコ様。子供が生まれたのです。女の子です。名を授けてやっていただけませんか」

「おお、よくやった。この良い時季に生まれたのだ。ミノリというのはどうだ」

 ミコの言葉に女は飛び上がらんばかりに喜んだ。

「とても良い名でございます。ありがとうございます」

 そして女が去っていく。

 次は、だいぶ歳を取った男だった。その後ろには中年の女。気が付くと、部屋はたくさんの人で埋まっていた。ミコと話をするために集まっているようだ。内容もさまざまだった。

 失せもの。

 悪しき夢。

 夫婦喧嘩。

 商い。

 ありとあらゆる悩みや相談をミコにしているようだった。ミコはどんな内容にも必ず応えているようだった。風神の子にはそれがとても奇妙な光景に見えた。みな明るい顔で去っていく。とてもいいことだ。しかし、これだけの人がいて、なぜミコにだけ話すのだろうと思った。もやもやと黒い気持ちが体を重くしていくようだった。

 全ての人が去った時、日は既に傾いて部屋の中を橙色に染めていた。

「風神の子よ、もう出てきてもいいぞ。放っておいて悪かったな」

 どうやら気付いていたようだ。風神の子は、ふすまを開けてミコのもとへ行った。

「なんだ、あれは」

「この村のミコとして、村人たちの話を聞いていたのだ」

 ミコは、伸びをしながら答えた。

「おまえ、いくつだ?」

「歳か? 十四だが」

 そういうと、ひゅうと風が巻き起こった。

「たかだが十四のおまえに、大人たちがなんでもかんでも聞きにくるのか」

 どうやら風神の子が腹を立てているらしかった。

「みな不安なのだ。大人とて誰かに頼りたいのだ」

 ミコはなだめるように言った。

「だからと言ってなぜおまえが全て引き受ける必要があるんだ。人ならたくさんいたじゃないか」

「わたしはご神木より生まれた“ミコ”だからな」

 村人たちは万能の奇跡の存在だと信じているのだ、実際はただの捨て子だが、と言って笑う。

「ばかばかしい」

「でも村人たちがいなければ、わたしはきっと死んでいた。親もわからぬ、ひとりで何もできぬ赤子を育ててくれたのは村人たちだ。恩返しをせねばならない」

「だからと言って、あんな風に利用されるのか。おまえはただの子供なのに」

「利用しているのはわたしも同じだ。わたしは誰かに必要とされなければ生きていけぬのだ」

 そう語るミコの目は澄んでいた。風神の子はたまらず叫んだ。

「おまえはばかだ!」

「何をそんなに腹を立てているのだ。風神の子よ」

 ミコは不思議そうな顔をした。

「気に入らない。おまえも村人たちも」

「そうか。しかしこれがわたしたちのやりかただ。そなたが口を出すことではない。さて、夕飯の支度をしよう。少し待っていてくれ」

 ミコは、話は終わりだと言わんばかりに、立ち上がってさっさと出て行ってしまった。風神の子はひとり部屋に残った。行き場のない風が吹き続けていた。

 風神の子は、夕飯の時こそおとなしかったが、翌朝からはけろっとしてミコの後を付いて回った。畑に行ったり、山に薬草を取りに行ったり、書物を読んだりと常に一緒だった。

 村人の話を聞いている時は、風神の子はじっと隣の部屋から見つめていた。そして、終わると必ず抱き付いてきた。ミコは初めの2、3回こそ、さみしかったのか、腹が減ったのかとからかっていたが、無言でただただ抱き付いてくる風神の子を、何も言わずに抱きしめ返すことが常となった。

 そうして穏やかな時間が過ぎていった。神の子と人の子の奇妙な友情が成立した。

 ひと月ほどたったある日、とうとう迎えが来た。別れは突然だった。

 ミコの目の前であっという間に巻き上げられる風神の子は何かを叫んでいるようだったが、ごうごうとなる風の音でよく聞こえない。

「ミコ! 必ずまた来る!」

 その言葉だけがかすかに聞こえた気がした。

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