2016_09
15
(Thu)23:20

嘘つきは物語の始まり 第三夜『蜜の色』

こんばんは。
今日は「エリカ」をいただきます。


『嘘つきは物語の始まり』
https://lieisstory.theblog.me/








屋敷の裏手に川があって助かった。

がんがんと激しく痛む頭、涙で滲む視界、胃液で焼けるような喉。

星の明かりだけではよく見えないが、自分のせいで水面が濁るのははっきりとわかった。

もはや何も出てこないのに、拒否反応で狂った体はいまだに胃の中身を体外へ放出しようと震え続ける。

思いきって水の中に顔を突っ込んでざぶざぶと洗い、そのまま口をゆすぐ。その刺すような冷たさでいくらか気分がましになるような気がした。

「お前は本当に純粋だな」

いつの間にか二番目の兄が後ろに立っていた。雲の隙間から顔を出した月の光を背に浴びながらわたしを見下ろしている。

彼は表情のない顔で花の束を差し出した。そのあたりの野で引きちぎってきたのだろう。いくつかは根がついたままであった。

わたしはひったくるようにして花を受け取ると、無心に口の中へ詰めた。わずかに感じる花の蜜に体が落ち着いてくる。

「濃く受け継ぐのも考えものだ」

兄の言葉の破片が地面にぽとりと落ちた。



わたしたちは旅をしている。国から国へ常に移動をしながら。それでも食べるのに困らないのは、とある組織に所属しているからであった。

組織から受ける依頼は決してきれいなものばかりではなかったけれど、言葉だけに埋もれて過ごすのが最優先のわたしたちにはどうでもよかった。

しかし、生きている人間として組織に所属している以上、避けられない交流はあった。

大抵は組織絡みの権力者に食事に招かれ、彼らに乞われるままに遠い国の夢を語る。仕事は組織を通してしか受けられないため翻訳はできない。破ったら双方に制裁が待っている。だから、何の得にもならない物語を聞かせるのだ。

遠い遠い昔の記憶を強く残すわたしの体は、なぜか花しか受け付けない。千歩譲って野菜までだ。

獣や魚の類を取り込めばたちまちにおかしくなってしまう。ベジタリアンで通しているが、うまくいかないこともある。

今日は失敗した。かなりの力を持つ者の誘いだったため無下に断れなかった。その結果がこれだ。

お母さん……

こんな時は決まって母が恋しくなる。亡くなったのはもう何年も前だというのに鮮やかにその温もりが思い出される。しかし、声も姿もだんだんと掴めなくなってきている。

どうして映像は記録できないのだろう。形も色もかすんでしまい、今では抽象画以下だ。

ああ、だから言葉が、文字が必要なのか。

ぼんやりした頭を焼き切れるくらいに回して、ほんの少し蜜の染みたからっぽの体を無理やり動かすと屋敷に戻るべく一歩を踏み出した。


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