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2016_09
08
(Thu)22:00

嘘つきは物語の始まり 第二夜『夜の空』

こんばんは。
今日はジャック・ローズをひとつ。


『嘘つきは物語の始まり』
https://lieisstory.theblog.me/









母は美しい人だった。

自分の身の丈ほどもある長い髪を何よりも大事にしていて、時間を見つけては油を塗り込んだり、梳かしたりしていた。

さらさらと流れる黒い髪は光を受けると輝いて、まるで星を抱く夜の空のようだった。姉たちやわたしが嬉々として手に取るのをまぶしそうに見つめていた。

そう、何よりも大事だった。
だから、あっさりと死んだ。

それは家族で次の国へ向かうべく森の中を移動している時だった。

旅をしている以上、大抵のことは切り抜けられるようになっている。男も女も自分ひとりを生かす程度の術は身に付けている。

あたりには何の異常も予感もなかった。だから、薪を拾ってくると言った母を誰も止めなかった。

おかしいと思った時にはもう遅く、わたしたちのいた場所のすぐ近くで彼女は変わり果てた姿で見つかった。

短くなった髪を振り乱し、目をかっと見開いて横たわる母の首には夥しい量の血が流れた跡があった。手に握られたナイフはよく見知ったものだ。

髪を切られた後に、自らの手で。

一目見た印象はそうだった。もしかしたら髪を奪った誰かの見せかけかもしれないが、なんとなくそうは思えなかった。

近付くほどに森の気に紛れきれていない鉄の匂いが濃くなる。無造作に放り出された体に触れるとまだ温かいような気がした。もちろんそんなことはなかったけれど。

すぐ脇の赤黒い水たまりに手を伸ばすと、地面の土と混ざったざらざらとした感触だけがあった。こんなに命の香りが漂っているのに、すべてが流れ出した抜け殻はもう何にもならない。

わたしはがたがた震えながら、自分の髪を胸に抱いた。母の血が絡まるが構っていられなかった。

自分たちが「生きる」というのはこういうことだ。歪んでいて、世界に反しているから脆い。あっさりと時間が止まる。

怖い。

自覚した瞬間にどくんと心臓が跳ねる。突き破って出てくるのではないかというくらいに。

母の語る遠い昔の記憶が身に迫って感じられる瞬間だった。

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