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2016_09
01
(Thu)22:00

嘘つきは物語の始まり 第一夜 『月と花の記憶』

ミモザをひとつ。

はじめまして。ソウと申します。国を越えて、あるいは時間を超えて言葉を繋ぐ翻訳家です。

文字と少しの花の蜜で生きているから、花の名のついたお酒しか飲めません。

……この長い髪が言葉を記憶しているの。絶対に触れないでくださいね。


『嘘つきは物語の始まり』
https://lieisstory.theblog.me/







遠く遠くの地平の先に浮かぶ大きな満月。それがこの場の支配者だった。

紺色の薄い闇の中をひらりひらりと花びらが舞う。

黒、赤、青、緑、ピンク、黄、オレンジ。

形も大きさもばらばらで、そのうちの一枚を手に取ってみると異常なまでに柔らかかった。

天を仰げば降る花影がいくつも見える。このままでは窒息する、と思った。

花びらに手足を捕らえられ、清冽な香りに呼吸を奪われて、わたしという存在が押し縮められて緩やかに消えていくのだ。

さぞ、苦しいだろう。

ふるりと体が震える。胸のうちに生まれた恐怖が一歩を踏み出させる。

しかしすぐに転んでしまい、一瞬にして視界が真っ暗になる。

衝撃のかわりに、グラスの中の氷が立てたからりという音が耳に入ってきた。人々の話し声も聞こえてきて、急速に世界に熱が宿っていく。

バーの隅っこでいつの間にか眠ってしまっていた。その理解は少し遅れてやってきた。

ああ、またこの夢――大きな月と降る花の記憶。




わたしに故郷と呼べる場所はない。生まれた場所もよくわからない。

家族でずっと旅をしてきた。だから強いて言えば各国の図書館が故郷に近いかもしれない。自分を育てた場所、ルーツという意味で。

物心ついた時からとにかく文字と言葉を覚えるのが与えられた役割だった。言葉を覚えるということは、ただ形と対になる意味を覚えるだけではない。使い方を本当に理解するためにその国の歴史、文化、精神、ありとあらゆるものを知らなければならないのだ。

だから行く先々で文献が集まる場所に行き、ひたすらに知識を詰め込んだ。それから街を歩いて知識を定着させる。実感するのだ、音や空気や匂いを、その言葉を生んだ土壌を。そうしていくつもの言葉を自分のものにしてきた。

ただ、繰り返す。ずっと。

だからどこの出身と聞かれるととても困る。そういう時は曖昧に笑ってお酒で流し込んでしまう。

そして、ふいに脳裏に浮かぶ色とりどりの花の影。

息が、苦しい。

いつまで続くのか。きっと生きている限りこの記憶に悩まされるのだろう。

母の昔語りが本当であるならば。


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