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2016_08
16
(Tue)17:57

4000hit企画作品『夏の欠片』

4000hit企画作品②です。

龍神と花嫁』、『金魚の棲む森』、『タイムカプセル』より。

※本編未読の方にはよくわからない仕様になっておりますのでご注意ください。









「あ、目を覚ました」

 私の顔を覗き込むのは黒い浴衣姿の男の子。真っ赤な金魚のお面で顔の左半分が隠れている。その後ろにはぞっとするほどに大きな満月が輝いている。

 その冴えた光はぼんやりとしている頭に強烈な印象を与えた。

 怖い――

 とっさに身を起こそうとしたが、指先がわずかに動くだけだった。地面に縫い止められたように、あるいは鉛にでもなってしまったかのように体が動かない。

「龍神様、起きたよ!」

 彼は誰かに向かって声をかける。視線を巡らせると枝を隙間なく四方八方に伸ばした木があたりを囲んでいる。どこかでがあがあと喉をつぶすように鳥が鳴いているのが聞こえる。

 明らかに変な場所だ。なぜ自分はこんなところにいるのか。いまだに靄がかかったような頭で必死に記憶を探る。

「わかったから、大声を出すな」

 思考を打ち消すように低い声とともに暗闇から現れたのは銀色の美しい人だった。真っ白な肌に青い目、淡く輝く長い髪は瞳と同じ色の衣の上をさらさらと揺れている。

「おい、娘。どうやってここへ来た」

「……わかりません」

 やっと聞こえるかどうかくらいであったが、なんとか声は出た。

「ねえ、那弥子って知っている?」

 視界を覆うように金魚のお面の男の子が再び覗き込む。その瞳は炎が宿ったかのようにぎらぎらと輝いていた。

「ナミコ?」

「そう! 人間の女の子。とってもかわいくて優しいんだ」

「ごめんなさい。私の知っている人ではなさそう」

 そう告げるとはっきりとわかるくらいに落ち込んでしまった。彼が視界から消える。

「そうか。今の那弥子のことがわかると思ったのに」

 その声からは先ほどまでのまでの無邪気さが消え、底冷えするような暗い響きがともり始めた。

「じゃあ、早く会えるようにきみを食べてしまおうか」

 どくんと心臓が鳴った。彼のほうに視線をやると、思わず悲鳴を上げそうになった。

 彼の左袖は不自然にしぼんでいる。よく見ると顔のお面も本来あるはずの厚みを無視して垂れ下がっている。

「一旦消える寸前まで散り散りになってしまったんだ。それを龍神様が拾ってくださってここまで戻せた。あと少し、あと少しで元の姿になれるんだ」

 そう言いながらゆっくりと右手が伸ばしてくる。だめだ、このままでは私は食べられてしまう。

「ナ、ナミコさんはあなたのことを知っているの?」

 咄嗟に出た言葉に、彼の手が止まる。

「知らないよ。消えたことも、今ここにいることも」

 無表情が怖い。しかし、考えなければ。どうやったらこの危機を脱出できるか。キーはナミコさんだ。

「ナミコさんて人間なんでしょう」

「そうだよ。おれを飼っていたばあさんの孫だ」

「どんな人?」

「優しくて、いい子だよ」

「あなたが人間を食べたと知ったら、彼女はどう思うの」

「那弥子には言わないよ。そんなこと」

 彼はぷいっとそっぽを向いてしまった。これならいけるかもしれない。

「もし、聞かれたら?」

「言わない」

「ナミコさんがあなたを好きなら、あなたが何も言ってくれないの、悲しむと思う。隠し事されるのは傷付くよ」

 う、と金魚がたじろぐ。ナミコさんの話題を出したおかげか、先ほどまでの怪しい光が消えていた。自分でも無理があるとはわかっていたが、このまま押し切るしかない。

 そこで黙って事の成り行きを見ていた龍神様が声を上げて笑い始めた。

「おい小魚、あきらめろ。人間の女は強かで我々が敵うような相手ではない」

「でも……」

「そんなもの食ったところでお前の腕も顔も生えてこない。黙って俺の手伝いをしていればいいんだ」

「龍神様、魚使い荒いんだから」

 ぼそっと彼が呟くと、龍神様の雰囲気が変わったような気配があった。

「何か言ったか」

 いいえ、と金魚が慌てて否定する。龍神様が大きなため息をつくのと同時に近付く足音が聞こえる。

「娘、俺がお前を元の場所に戻してやる。だから、ここで見たもの聞いたものは全て忘れろ」

 立ったまま見下ろす格好で龍神様が告げる。こんな状況なのに、「ああ、きれいだな」なんて思ってしまう。

「そして、二度と戻ってくるな。いいな」

「……わかりました」

 月の光を浴びてどこか寂しそうに龍神様の瞳が揺れるから、その理由を問いたくなってしまった。しかし、口を開く前に視界が闇に覆われる。

 森の中なのに強い水の匂いがする。花の香りを溶かしたようなひどく甘い水の香り。そこで、私の意識は途切れてしまった。



「……ん、凛!」

「やま、もとく、ん……?」

 よかった、と思いきり抱きしめられる。山本くんの肩越しに見える満天の星空に戻ってきたのだと安堵した。

 え? 戻ってきた?

 自分の思考がよくわからない。私はみんなで星を見に来ていて、足を滑らせて、それで……

「大した高さじゃないしけがも無いみたいだけど、とりあえず病院に行こう」

 山本くんのひどく歪んだ表情に、目の奥のほうが熱くなる。そうだ私は坂から落ちたんだ。私の不注意で彼にもみんなに心配をかけてしまった。

「うん。ごめん」

 抱え上げてくれる山本くんのぬくもりが心地いい。私はとても疲れたような気がしてそっと目を閉じた。

 どこかで星が流れる。そうして、わずかに残っていた違和感は永遠に消え去った。


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C.O.M.M.E.N.T

吉川さんこんにちは。
早速の更新、ありがとうございます。わくわくしながら読みました。

もうどのキャラもとってもらしくて、特に金魚の黒さが!!!もうたまりません!!!
それだけ那弥子に会いたいんだなと思うと、黒さの中にも切なさを感じました。
後、龍神様はなんやかんやで優しくて、金魚も拾ってくれるし吉岡さんも助けてくれるし、読んでて一番にやにやしました。
吉岡さんも一生懸命説得しようとしていて、可愛かったです。
山本君とはちゃんと続いてるんですね。きっと山本君ががんばってるんだろうなと思いました(笑)
みんなと言うのは、あのタイムカプセルのメンバーでしょうか?
タイムカプセルがきっかけで、また交流が再開するとか素敵ですね。

素敵なお話をありがとうございました。リクエストしてよかったです。
これからも更新楽しみにしています(^^)

2016/08/17 (Wed) 22:02 | 櫟 弓子 #- | URL | 編集 | 返信

Re: タイトルなし

櫟さま

こんにちは。コメントありがとうございます。
久しぶりの金魚でしたが、すいーっと泳ぐように好き勝手にやっていってくれたのでとても書きやすかったです。
龍神様が若干空気になるくらいおもしろい取り合わせになりました。
書いていてとても楽しかったです。リクエストありがとうございました。

みんなはおそらくタイムカプセルのメンバーです。
凛以外はもともと交流があって、あの開封会以降そこに凛も加わるようになったという感じです。
だんだんと「佑太を見守る会」みたいになってると思います。
凛だけが気付いてない状況で、まわりはにやにや見てるんだろうなと思うととても楽しそうです。

これからもどうぞよろしくお願いします。

吉川蒼


2016/08/19 (Fri) 17:13 | 吉川蒼 #- | URL | 編集 | 返信

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