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2014_03
23
(Sun)18:16

『風の行方』 前編

空から落っこちてきた風神の子と人間のミコの話



 





 萩、薄、女郎花。好き放題に草木が伸びている庭は、昨日の晩に雨が降ったため、朝日を浴びてきらきらと輝いている。少女は早朝から縁側に座ってそれをぼんやりと眺めていた。すると、草木が揺れる中に見慣れぬ色が混じっているのに気付いた。

 この庭には似つかわしくない鮮やかな青色を不思議に思い、少女は袴が濡れるのも厭わずに庭に降り立った。自分の腰ほどもある草をかき分けながら、それが見えた場所へ向かう。

 辿り着いてみると、真っ青な水干を着た童男が倒れていた。年の頃は自分より少し下、十くらいだろうか。なぜか彼は濡れていなかった。

 迷子だろうか。やたら上質な布をまとっているし、訳ありかもしれない。若干不審に思いながらも少女が子供をゆすると、ううんとうなってぱちぱちと目を瞬いた。気が付いたようだった。

「大丈夫か? けがはないか? なぜこのようなところにいるのだ」

 少女が起こしてやろうと手を伸ばしたが、彼はその手を無視して体を起こした。

「ここは……どこだ? おれは……」

「ここはわたしの屋敷の庭だ。なぜだかわからないが、そなたはここに倒れていた」

 少女はそう答えた。しかし、彼は彼女の言葉など聞いていないかのようにぼうっと明後日のほうを見つめている。

「かたい……」

 地面に視線を落とし、撫でている。ぬかるんでいるはずなのに、彼の手は汚れなかった。不思議に思った少女がじっと目をこらすと、彼のまわりにわずかに風が生じていた。

「もしや、風神の子か? 空から落ちてきたのか?」

 彼がびくりとする。初めて少女に気が付いたかのようだった。

「何の用だ。人の子」

 こちらに向いた両の目は深い緑色をしていた。子供のものとは思えない鋭さだった。しかし、少女は全く気に留めていない様子で続けた。

「おお、当たったか。空から落ちてくるとは、難儀だったな。わたしはここヒカミのミコだ。風神の子よ、迎えが来るまではわが屋敷でくつろいでいくとよい」

 正体がわかってよかった、とミコは立ち上がり、さっさと戻ろうとする。

「おい、待て」

「何の用だ? わたしは忙しいのだ」

 やれやれといった感じで振り返ったミコに、風神の子は無性に腹が立った。

「人の子、しかもおまえはミコなのだろう。もっと敬え。そしてしかるべき扱いをしろ」

「そう言われてもな。わたしは今から飯を食って、畑を見に行かねばならんのだ。そなたに関わっている暇はない」

 飯、と聞いて、風神の子の腹が鳴った。

「……腹が減った」

「人の食べ物でいいならばついてこい。あまり量は出せないが、用意しよう」

 ミコはそう言うと、今度こそ屋敷の中に消えていった。



 
 
「風神の子よ、味はどうだ」

「ん、悪くない」

 ミコは目の前でもくもくと食べ続ける彼を見て、風神の子でも人のように箸と椀を持って、飯を食うのだなと不思議な心持ちになった。呆気にとられているうちに目の前から料理がどんどんと消えていく。そして、彼はあっという間に完食してしまった。

「わたしの分も食べるか?」

 ミコは風神の子の食べっぷりがおもしろくなってそう提案した。

「ん、もらう」

 風神の子はミコの前の手つかずの椀を手に取ると、また食べ始めた。ミコは腹を壊さねばよいがなどと考えていたら、結局ほとんどを取られてしまった。

「腹いっぱいだ」

「満足したか」

「ああ。人の子の食べ物もなかなかいけた」

 最初出会った時の不機嫌が嘘のように素直な口を聞くようになっていた。なるほど腹が減って虫の居所が悪かったのか、見た目通りの子供らしいとほほえましくなった。

「では、わたしは畑を見に行く。そなたはここでゆっくりしているとよい」

「……ついていく」

「そうか。好きにしろ」

 ミコはなんとなく、弟がいたらこんな感じだろうか、と思った。





「特に被害はなさそうだな」

 昨日の雨でもしかしたらと思ったが、いらぬ心配だったようだ。幸い土も流れていないし、夏のように背が高いものもないから風で倒れているということもない。

「ここには何があるんだ?」

 風神の子がミコの袖をくいくいと引き、地面を指さす。

「わたしたち人が食べる野菜というものがこの土の中に眠っているのだ。今は大根や芋だな。わたしが作ったやつはあまくてうまいぞ。またとったら食べさせてやろう」

 今日のところはまだ早い、帰るぞと告げると、風神の子は少しだけ悲しそうな顔になった。よほど食い意地が張っていると見える。ミコはそれがおかしくなって、つい噴き出してしまった。

「なにがおかしい」

「いや、別に。そなたは人の子供みたいだと思って」

「ばかにしているのか」

 途端に風が巻き起こる。ミコの長い髪が宙へ舞い上がる。

「おお、すごいな。さすが風神の子だ」

 すっかり子供扱いしているミコは、そんな風神の子の怒りもまさにどこ吹く風、手を叩いて喜んだ。風神の子は毒気を抜かれた。

「おまえは変わっている」

「そうか? まあいいではないか、帰ろう」

 ミコが手を差し出すと、風神の子はそれをじっと見つめる。

「なんだ」

「手をつなぐのだ」

 不思議そうな顔をする風神の子の手をミコがとる。

「こうするのだ」

 ミコは得意気に笑う。

「そうか」

 風神の子はつないだ手をしばらく見つめていたが、ふりほどきはしなかった。そうしてふたりは手をつないで帰った。

 
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