2016_07
07
(Thu)00:00

『星に祈りを』(『約束の夏』×『星がおちたら』番外編)

一年前の七夕の日。『天に届くまで』の続き。







 いずみと陽平は同時にその動きを止めた。触れ合うほどに近付いた肩からお互いの緊張が伝わる。頭の中をどくどくと血が巡る音だけが支配しているようだった。

 並んで立ち尽くすふたりの視線の先には、後ろから恋人を抱きしめる男の姿があった。

 大型ショッピングモールのイベントホール。吹き抜けの空間で大きな笹がかすかに揺れている。七夕のイベントとして誰でも自由に短冊を飾れるようになっていた。今日はちょうど休日ということもあり、たくさんの客で賑わっている。

 偶然祖父母の家に来ていた陽平は、母たちの買い物に付き合うことを口実にいずみを誘い出し、母たちの休憩を口実にふたりきりの時間を手に入れた。

 笹に目を輝かせたいずみに、陽平は仕方ないなと言いつつ一緒に短冊を書いた。そうして、ちょうど吊るし終えたところだった。

 物陰での一瞬の出来事だったため、ほかの誰も気付いていない。

 しかし、ふたりは確かに見てしまった。そして、なかった事にできないほどに固まったまま時間は経ってしまった。なんとも居心地の悪い空気が流れる。

 そんなふたりには気付かず、そのカップルは手を握って去っていった。

「えーっと、びっくりしたね?」

 いずみがわざとらしく口を開いた。陽平は何も言わずにじろりと睨む。その顔には触れてほしくなかったと書いてあり、いずみは失敗を悟った。

「……そろそろ戻ろう」

 陽平はふいと顔をそらしつつ、いずみの手を取って歩き出した。その手はいつもより熱く、力強い。

 不機嫌を装いながら、律儀に隣を歩くという約束を守る陽平。一年前よりも確実に近付いているその横顔。そばにいるのに、いずみは置いていかれるような気持ちになる。なぜなのかはよくわからない。

 そんな思いを打ち消すように、いずみは開きっぱなしになっていた指に力を込めた。





 夏彦の隣に追いついた花織が背後を振り返り、ふっと笑みをこぼした。

「どうした?」

「いや、あのふたりかわいいなあと思って」

 夏彦が振り返ると、手をつないで歩く子供たちがいた。女の子が男の子の顔に寄せて、何かを告げると険しい顔をしていた男の子の表情が緩む。それを見て女の子は満足そうに笑う。

 そうして、ゆっくりと同じ速さで歩いている。

「さっきね、短冊吊るしてる時にあの子たちのやりとりが聞こえたの」

 男の子の短冊には女の子の高校合格の願いが、女の子の短冊には男の子のサッカー上達の願いが書かれていた。

「はじめはお姉ちゃんと弟かと思ったんだけど」

 お互いの短冊を見て、指切りをしていた。絶対に叶えてみせる、と。

 交わされた指に滲む強い絆と覚悟。あのふたりには特別な結びつきがある。

 自分たちと同じような。

「へえ……じゃあ俺も真似しようかな」

 夏彦が優しく微笑み、指を絡ませる。そして瞳にひどく真剣な光を宿し、告げた。

「俺は諦めないよ。何があっても」

 あの子たちの真似、絶対に叶えると誓っていた、つまりこれは祈りでも願いでもない『約束』だ。

 ああ、この人は、と思った。花織は夏彦の濃やかさに気付くたびに、幸せで幸せで泣きたくなる。どれだけ時が降り積もっても永遠に色褪せない思いに、いつまでも溺れるようだった。

 息苦しさをごまかすように、思い切り腕にしがみついた。

「おいおい、これじゃまるでバカップルだ。いい歳して……」

 わざとらしく呆れた声を出す夏彦に、花織はそっちだってやったじゃないのと抗議する。そうして一拍置いて笑い合う。

 よそから見たら本当におかしなふたりだろう。でも、ぼんやりと滲む視界さえ愛おしい。

 星に祈りを、互いに願いを。そして約束を。どうかあのふたりも幸せでありますように。




HAPPY BIRTHDAY★


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2016/07/19 (Tue) 03:55 | # | | 編集 | 返信

Re: タイトルなし

鍵さま

こんばんは。コメントありがとうございます。
プレゼント届いていてよかったです。

あまりお気になさらず、鍵さまのやりたい時にやりたいことをすればいいのですよ。
自分で自分に義務や制約を増やすのは百害あって一利なし!

あれ、いずみちゃんでしたか。てっきり陽平くんのほうに感情移入して恥ずか死状態かと思っていました。
でも、いずみの心に一滴だけ落ちる不安みたいなものを書きたかったので、注目していただいてうれしいです。

あと、この二組が並列だということに気付くとは......さすがです。感激してしまいました。
最初はもっとあからさまに「長く続いている時間」の表現が入っていたのですが、なんとなく邪魔になって消したのです。
その雰囲気を感じ取っていただけるなんて、本当にこれまでの作品をじっくり読んでいただけているんだなあとうれしくなりました。

コメントなんぞはお気軽にぽいっと投げてください。一文字でもかまいませんよ~
では、また。


吉川蒼

2016/07/19 (Tue) 23:43 | 吉川蒼 #- | URL | 編集 | 返信

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